科教協静岡が主催する「静岡理科の会」は、コロナ禍の中で計画をしても2年間開けませんでした。今回、静岡大学教育学部附属静岡中学校の理科室をお借りしてやっと開くことができました。小・中学校の教員や退職者に加えて、大学生や出版関係の方も含め、多彩な約20名のみなさんの参加があり、参加することが力になるような良い集まりになりました。
以下の記事は、科教協静岡の会員が分担して執筆しました。
(1)「小学校5年生電磁気の実践から本年度の理科授業を考える」
講師:青木史弥さん(静岡大学教育学部附属静岡小学校)
教え込みではなく、子どもたちが試行錯誤して問題解決をしながら、基礎的な知識や技能を獲得する。そのような今求められている授業を、青木先生は小学校5年生の「電磁石の性質」を題材に提案してくださいました。
電磁石というと一般的にはコイルの巻き数や電流の大きさ変えながら鉄釘やクリップをどれだけ引き付けられるかを調べ、電流がつくる磁力についての理解を図っていく授業が展開されます。しかし、青木先生の授業は電磁石の引力ではなく斥力に着目して、「電磁石ロケットをもっと高く飛ばしたい」という子どもたちの意欲をかき立てるものでした。
子どもたちが実験を進めると、コイルの巻き数が多い方が高く飛んで、磁力が強い一方で、電流が小さくなるといった矛盾点にぶつかりました。「エナメル線が長いほど電流が小さくなるのでは」と仮説を立て、①エナメル線の長さを変えず、巻き数を変える、②巻き数を変えず、エナメル線の長さを変えるという2つの条件で実験をしました。この実践に対しては、「中学校の抵抗にもつながる」「中学校でこれを実践しても通用するのでは」といった意見が出ました。
単元の最後には、これまでの学習を活かして電磁石ロケットを高く飛ばす課題に子どもたちはチャレンジしていました。電池の個数を増やしたら、巻き数を増やしたらといった子どもたちの願いに応えるものであり、アクリルパイプからロケットが飛び出そうになるグループもあったと聞きました。
先日の「全国学調」では、条件制御しながら定量的にデータをとり、考察できるような力が求められました。生徒指導や他教科の準備をしなければならない中で、理科で求められる授業の質はかなり高いものだと感じました。青木先生の実践のような質の高い授業が広まって、子どもたちの資質能力の向上と小学校の先生方の負担低減の両立がなされたらと思います。
(2) 「中学校2年生化学分野の単元構想を立てよう」
講師:杉本寛さん(吉田町立吉田中学校)
はじめに、講師の杉本さんより、単元構想を立てるときの考え方などについて、ご自分の経験も交え、「生徒の実態」「授業の失敗例」「授業の進め方」「生徒の不安、教師の失敗と単元構想」について話していただきました。その中で、生徒の実態を理解して授業を進めていくことの大切さを改めて示していただきました。そして「熱分解の単元構想を作ろう」では、①最初は過去に学んだ実践など、楽しく取り組めることから入る。②本時の内容が既習事項を生かしたものになっている。③授業時数を守りつつ、同じ内容で教材を変えて2回は繰り返す。この3つを意識したというお話がありました。
ここで、D社とK社の教科書はどうなっているかを比較します。D社では、酸化銀の熱分解から用語の説明、炭酸水素ナトリウムの熱分解、カルメ焼きの紹介という順番になっているのに対し、K社ではダイヤモンドや発泡入浴剤の紹介、カルメ焼きとどら焼きの紹介、炭酸水素ナトリウムの熱分解、用語の説明、酸化銀の熱分解の順番になっています。教科書によって進め方が違っています。杉本さんの進め方は、オリエンテーションの後、砂糖の加熱を例にした状態変化と化学変化、カルメ焼き、炭酸水素ナトリウムの熱分解、用語の説明、酸化銀の熱分解の順ということでした。
杉本さんは、砂糖の加熱により「状態変化」と「化学変化」の説明をすると、演示実験を交えて紹介がありました。また、参加者の高橋さんから、白色の粉末の炭酸水素アンモニウムを蒸発皿に入れて加熱すると、アンモニアと二酸化炭素、水に熱分解されるため、蒸発皿の上の物質は消えてしまう(何も残らない)様子を演示で紹介していただき、参加者は皆、興味深く実験を観察しました。熱分解の単元で、どんな物質を実験に使用し、どのような順で進めていくかということをより深く考えることができました。
最後に、杉本さんからは、単元構想については、どの進め方の方がいいといった答えを出すことはできませんが、単元計画により生徒の思考の表れが変わってくることを感じるとともに「生徒が楽しく単元や授業には入れるようにしたい。その中で、規律や学力をつける。」という考えをお話しいただきました。
【関連】
「教材配置をどのように考えるか-中学2年の化学変化(熱分解)から」 杉本寛(2021.4)
「炭酸水素アンモニウムの熱分解で討論を」 髙橋政宏(2021.3)
「クジャク石を使った化学変化を実感する授業」 髙橋政宏(2018.11)
(3) その他の意見交換 <学びに向かう力>の評価について
発表や課題提出の回数で評価するのではなく,人間性を見なければならないことになっている。学習に取り組む粘り強さと,他者と関わりながら自らの学習を調整しようとする力を2軸にして,評価するとよいとされている。発達段階によっては自分を素直に表現できない生徒もいるが,楽しそうに取り組んでいるかがポイントになるのではないか。
【全体的感想】 教材開発はとても楽しいことです。今日のような研究会に参加して新しい情報を仕入れたらすぐ自分の授業でもやってみたくなります。先生という仕事にはいろんな規制もあって難しいのですが,明日の授業をどうするかを考えるのは自分なので,結構自由な仕事だともいえると思います。だから,ついついやり過ぎて,子供に負担をかけてしまうかもしれません。勉強が苦手の子にとって教科書以外のことまで学ぶことの負担感は意外と大きいのかもしれません。現役の時勝手にいろいろやってきた身としては反省することが多いです。大切なことは新しい実験を知ることではなく,その教材の本質を知ることだと思います。それは指導要領や教科書とは違うかもしれません。今日の発表を聞いて化学変化や電磁石の本質は何だろうと考えたら,自分としてはよくわかってないなと感じました。
問い合わせ先:長谷川静夫(科教協静岡) skrc@sf.tokai.or.jp
関連:「静岡理科の会」(2020年4月9日)の案内ちらし(日程・会場・内容)