巴川(ともえがわ)は、長さが20kmに達しない短い河川(幹線流路延長は17.98km)で、竜爪山(りゅうそうざん)の南斜面から流れ始めています。下の写真は、静岡県庁別館(東館)21階の展望ロビーから見た静岡平野北側の風景です。巴川は、山々の南側を東(右)に向かって流れています。(2018年3月撮影)
上流に近い浅畑沼(あさはたぬま)の標高が6~7mなので、たいへん河床勾配が緩やかな、一般的に海岸低湿地を流れるような河川で、「排水型河川」と言えます。清水平野の海岸と三保半島(みほはんとう)に囲まれた折戸湾(おりどわん)に注いでいます。
巴川が流れているところは、約6000年前の縄文時代前期の今より温暖で海水面が高かった時期に、折戸湾からつづく内湾だったところが、海水面の低下につれて平野になった場所です。そのため、あまり堆積物が流れず堆積が進みません。
ただし、支流の長尾川(ながおがわ)は、山地を流れる上流の河床勾配がやや急なため、堆積物が多い河川となっています。
【巴川の河床縦断面図】
静岡平野・清水平野の特徴と成り立ちは、「写真でともに考える静岡平野・清水平野」を見てください。
→
(ここをクリックしてください)
① 上流(巴川起点)
静岡市葵区の麻機(あさはた)地区の北部(葵区北)に、巴川の起点の標識があります。標高は約60mです。この地点の巴川は、護岸工事がなされていて2mぐらいの川幅の流れがあり、さらに上流(北側)は竜爪山の南側になります。
この地点のすぐ南側には、新東名高速道路が通っています。(2020年4月撮影)
② 中流(麻機地区1)
麻機地区の南部(葵区南)から、上流を見ました。起点から川に沿って約2km下ってきた地点で、地表の標高は7.5mです。
この付近の川底は地表から1mぐらい下で、小礫や砂が堆積しています。(2020年5月撮影)
③ 中流(麻機地区2)
さらに数百mほど下って、静岡県立子ども病院の南側の南漆山橋(みなみうるしやまばし)より下流を見ました。周辺の麻機遊水池の整備とともに、巴川も護岸の整備が進んでいます。
(2011年9月撮影)
(2020年5月撮影)
下の写真は、賤機山(しずはたやま)の尾根から見た巴川の流路と麻機遊水池の一部です。(写真撮影の当時、新東名高速道路は工事中で、その新静岡ICにつながる「静岡南北道路」はありません)
(2004年8月撮影)
④ 中流(千代田地区1)
さらに2~3kmほど下ってきた地点で、巴川起点から約6.5km、河口から約11.5kmです。この地点の地表の標高は7~8mですが、川底はさらに2~3m下にあります。
下の写真は、葵区東千代田(ひがしちよだ)の城北浄化センターの南東側です。写真の右側(北)が巴川、左側(南)は、市街地から北上する十二双川(じゅうにそうがわ)、安東川(あんどうがわ)が合流した川です。それぞれ市街地の水路や農地の灌漑用水の水も集め、また河床勾配が緩やかなため流速が遅く水が滞ることもあり、流量が増えています。(2020年5月撮影)
1974年7月7日から8日に静岡県内で大きな被害が出た「七夕(たなばた)豪雨」では、巴川流域で浸水した家は2万5千戸以上になりました。麻機遊水池の整備もその治水事業の1つです。
下の写真の葵区上土(あげつち)にある神明神社(しんめいじんじゃ)横の電柱には、七夕豪雨での洪水痕跡の高さが表示されていて、その高さに驚かされます。(2020年5月撮影)
⑤ 中流(千代田地区2)
葵区古庄(ふるしょう)には、治水事業としてつくられた「大谷川(おおやがわ)放水路」の巴川との分岐口があり、放水路はほぼまっすぐ南に向かっていて、増水時には巴川の水を直接駿河湾に流します。この地点は、巴川起点から約8km、河口から約10kmで、標高は8~9mです。(2020年6月撮影)
巴川の上流方向
大谷川放水路の下流方向(普段の水量はごくわずか)
⑥ 中流(千代田地区3)
静岡市葵区古庄の北側に隣接する葵区川合(かわい)付近の、巴川の支流の長尾川の様子です。この付近から、長尾川と巴川は約2kmもほぼ平行に流れて、下流で合流をします。
この付近の長尾川は山地から平野に流れ出したところで、砂礫を多く堆積し地表面より川底が高い天井川(てんじょうがわ)になっていて、普段は川に水はありません。また、地表の標高も周囲より高くなっています。
巴川は、この付近で長尾川扇状地の縁にそって、南側へ湾曲しています。
静岡県道67号静岡清水線の富士見橋付近から下流(南)方向(雨の後 2020年7月撮影)
県道67号の富士見橋から上流(北)側、北街道の長尾橋方向(普段のようす 2020年6月撮影)
⑦ 下流(高部地区1) [注]中流、下流の区分は便宜的
静岡市清水区鳥坂(とりさか)付近で、葵区古庄から約2km下流です。巴川に合流している支流は、遠くの砂礫の堆積が見られるものが長尾川、手前の支流は継川(ままがわ、瀬名川(せながわ)ともいう)です。この付近の地表の標高は3~4mです。(2020年6月撮影)
この付近では、長尾川の影響で礫の堆積も見られます。
また、古庄から下流では、有度丘陵からの支流の合流もあります。
⑧ 下流(高部地区2)
清水区能島(のうじま)は、河口から5~6km付近にあります。地表の標高は約2.5mです。
下の写真は、梶原山(かじわらやま)から見た大内(おおうち)遊水池と、清水平野での巴川の流路を示します。(2020年6月撮影)
巴川の洪水対策としてつくられた大内遊水池
下の写真は、大内遊水池の少し下流の能島橋から見た高部(たかべ)みずべ公園と上流方向です。巴川に庵原山地(いはらさんち)から支流が合流していて、右側から合流しているのは塩田川(しおたがわ)です。
この付近の川底の堆積物は主に泥です。
下の写真は、能島橋から下流方向です。川幅は約40mあります。河口からこの付近までは「感潮域(かんちょういき)」と言い、川の流速や水位が潮の干満の影響を受けて変動をするそうです。
(2020年6月撮影)
⑨ 下流(入江地区)
静岡市清水区の入江(いりえ)地区の千歳橋(ちとせばし)付近では標高が2.5m、川に沿って河口まで約2kmの折戸湾沿いの場所です。下流では河道が直線化され、この辺りの整備された護岸の川幅は約50mあり、川幅いっぱいに水が流れています。下の写真は、千歳橋上から上流を見ました。
(2017年2月撮影)
⑩ 巴川の河口
巴川は三保半島との間の折戸湾に注いでいます。ここでの川幅は約90mです。下の写真は、羽衣橋(はごろもばし)から河口と折戸湾方面を見ました。正面は三保半島で、さらに遠くには伊豆半島の山が見えます。(2020年4月撮影)
下の写真は、河口から折戸湾と三保半島を臨みます。遠方は、清水の山、県東部の山と富士山です。
文責:長谷川静夫(科学教育研究協議会静岡)
2020年7月 作成 skrc@sf.tokai.or.jp
【関連】
1) Webサイト「しずおか河川ナビゲーション」(静岡県河川砂防局)には、巴川の紹介があります。
(http://www.shizuoka-kasen-navi.jp/)
(トップページ → 中部の水系のページ → 巴川水系 → 川の紹介のページに)
2) Webサイトにある「巴川水系河川整備計画」(静岡県・静岡市)は、河川整備に関する94ページものpdfファイル(4.9MB)だが、その前半には巴川の環境・歴史・特徴・生き物等のことが、掲載されていました。