1)クジャク石の教材としての魅力
・ クジャク石(マラカイト)は、 主成分が炭酸水酸化銅で Cu2(OH)2CO3 か、CuCO3・Cu(OH)2 と表示される。 (注:やや広い意味で塩基性炭酸銅とも言われる)
分解、 還元を通して、 銅を取り出せる(天然石から銅を取り出せる)魅力がある。
・クジャク石の熱分解: Cu2(OH)2CO3 → 2CuO + H2O +
CO2
(注)クジャク石は、鉄製乳鉢で粉砕して粉末状にしておく。
発生する物質は全て中学生が学ぶ物質で、生成する固体( CuO))の色も緑が黒に変化するため、 化学変化のイメージを持ちやすい。 教科書にある炭酸水素ナトリウムの熱分解 ( 2NaHCO3 → Na2CO3 + H2O + CO2 )では、化学変化の色は白から白で、生成した Na2CO3も知らない物質で適切だろうか。
2)クジャク石の還元
・クジャク石からの生成物( CuO)を炭素で還元:
2CuO + C → 2Cu + CO2
炭素4gに対して酸化銅0.3gの割合で混合し、試験管内で加熱する。
・クジャク石を水素で還元:
① 底に水を少し貯めた水槽の中で、 図1のように変形させた燃焼さじの上に粉末にしたクジャク石を置き、 トーチバーナーで強熱加熱する。(図2:クジャク石が熱分解してCuOが生成)
② あらかじめ水素で満たした集気びんを逆さにしてふたを取り、 直前まで加熱していたクジャク石に手際よく図3のようにかぶせる。
(注)水素は水素ボンベから上方置換で十分に入れるのが簡単。また、水素が約75%以上ならば爆発の心配はない。
③ 集気びんの口を水につけたまましばらく待つと、燃焼さじの上の物質が輝きを放つ銅に変化していく。(図4)
CuO + H2 → Cu + H2O
また、集気びん内が水滴でくもったり(水が発生)、集気びん内に水が吸い上がる(びん内の気体=H2がの減少する)ようすが観察できる。(図5)
3)クジャク石の入手先
「名取貴石」(インターネットで検索)にて、 「岩絵の具にも可マラカイト原石詰め合わせ」(1kg8,000円)
4)授業案(題材観)
(注:授業案は7ページで、以下は編集者の責任での部分的抜粋です)
① 見えない原子を実感する
化学変化について、原子を用いてしくみを説明したり、原子の組み合わせから予想を考えたりすることで、 題材を通して子どもたちが原子の存在を実感」してほしい …。
② 製銅とクジャク石
クジャク石そのものは知らなくても、分解によって得られる物質からクジャク石に含まれる原子を科学的に推察することができます。/中国河南省の遺跡調により、……4000年前から、 …クジャク石を加熱して得た酸化銅を炭で還元することで銅を得ていたことになります。 (県埋蔵文化財センターでは、 中国でクジャク石から取り出した銅で作った銅銭から溶かして作った銅鏡を、
触っても良いものとして貸しだしています) /製鉄には鉄鉱石をコークスによって還元する方法がとられていますが、 その際多量の二酸化炭素を排出します。 …… 日本においては鉄鉱石を水素で還元する方法が開発されています。水素での還元ならば排出するのは水だけです。
③ 本題材における教科ならではの文化
クジャク石に含まれる原子について、見通しをもちながら、計画を立てて実験を行い、考察をし、それを修正しながら、解明していきます。クジャク石はそこから銅が取りだせるという大きな魅力をもった題材です。
④ 題材と子どもたち
子どもたちは、クジャク石という一見銅とは似ても似つかない見た目の石から、銅が取り出せる事実を目の当たりにしたとき、まるで手品でも見ているかのような不思議な思いを抱くでしょう。……題材を通して、子どもたちが「原子」というフィルターを通して物事を見つめ直すことのできる、「科学のまなざしをもつ人」へと成長していくことに期待しています。
⑤ 題材構想(全8時間)
・ クジャク石から銅を取り出すにはどのようにすればよいのだろうか(1時間)
・ 酸化銅から銅を取り出すことはできるのだろうか(3時間)
・ クジャク石にはどのような原子が含まれているのだろうか(1時間)
・ クジャク石と塩基性炭酸銅は同じ物なのだろうか(2時間)
・ 化学反応式から未来の製銅を考えよう(1時間)
紹介:高橋政宏(理科サークル「SCIENTIA」)m-takahashi★ra3.so-net.ne.jp(★を@に変えてください)