内容 (1)Fe+S→FeSの実験について
(2)銅は化合したと言えるか(酸化銅への化学変化)
(3)酸化銅のマグネシウムによる還元
(4)酸化銅を水素を使って還元(鮮やかな銅色に)
(5)コンパクト ダニエル電池
(1) Fe+S→FeSの実験について
「鉄と硫黄の混合物を加熱すると匂いがします。これは硫化水素ですか?」という質問から、実際に実験をしながら議論が始まりました。
(ア) 加熱の時に発生する気体について
加熱時に発生する気体は、二酸化硫黄と気体の硫黄が主なものだと考えられます。
二酸化硫黄は、試験管内の酸素と反応して発生します。匂いはマッチを擦ったときのにおいで、花火の匂いと言ってもいいでしょう。有毒な気体ですが、一気に大量にかいだりしなければ問題ありません。
(換気を十分にした、理科実験の規模ならば問題はありません。)
硫黄は、バーナーによる加熱によって状態変化し気体となります。匂いは無臭です。
(イ) 硫化鉄に塩酸を加えた時に発生する気体について
硫化鉄に塩酸を加えた時に出る気体が硫化水素です。
硫化水素は、硫化鉄が塩酸と反応して発生します。匂いは腐卵臭と言いますが、最近の生徒はくさった卵のにおいなんて知りませんから「温泉地や火山でよくするにおい」などといった方が納得するかもしれません。
(硫化水素も有毒なので、実験は低濃度・短時間で終わらせる。)
(ウ) 硫化鉄の磁石の反応を確認する
未反応の鉄が残っているため、磁石につかないはずの硫化鉄が強力な磁石ではくっついてしまいます。そこで磁力の小さなフェライト磁石などで実験をするのがお勧めです。
加熱後の試験管をすぐに水につけ、試験管を割り、中から取り出した硫化鉄を使って実験するのがよいようです。実感を伴う教材として硫化鉄に触れられることと、磁石に直接つけられることのメリットは大きいです。
(2) 銅は化合したと言えるか(酸化銅への化学変化)
銅粉をステンレス皿で熱すると黒くなります。「これは化合したと言えるか」や「これは何でしょう」などと問うと、生徒は「化合して酸化銅になった」と答えるでしょう。
実際にステンレス皿に乗った黒い粉(酸化銅CuO)の質量を電子天秤で計測すると、銅の時より大きくなっています。このような授業展開は行う方もいらっしゃるでしょう。ここからの展開として、「酸素がくっついたという決着をつける方法」です。
① 丸底フラスコに酸素と銅を入れ、栓をします。
(図1はシリコン管をピンチコックで止めて、密封してあります。)
② 銅を加熱します。
赤色発光しながら反応します。(図2)
③ しばらく冷却させます。
④ 化合したのが酸素ならば、フラスコ内は真空に近いはずであることを確認します。
⑤ シリコン管を水につけて水が吸いあがる様子を見せ、銅の酸化を確かめます。(図3)
※ フラスコがよく冷えてからでないと、フラスコが割れます。
〈参考文献〉
玉田泰太郎 『新・理科授業の創造 物質概念の基礎を教える』 (新生出版 1997)
(3) 酸化銅のマグネシウムによる還元
還元材としてマグネシウムを使った実験です。激しい反応と色の変化から化学変化を実感できる教材だと感じました。
① 酸化銅とマグネシウム粉を混ぜ合わせる。
乳鉢と乳棒を使ってよく混ぜ合わせます。
② 酸化銅とマグネシウムの混合物に火をつける。
下からガスバーナーで加熱(図1)しながら、上にはマグネシウムリボン片に火をつけたものを入れる。(図2)
③ 反応後、よく水洗いをする。
酸化マグネシウムをながし落とす。
④ 水洗い後、希塩酸をかける。
未反応のマグネシウムや、酸化マグネシウムを溶かす。(図3)
⑤ ろ紙に移し観察する。
銅色の物質が観察できる。(図4)
乾燥させてこすると、光沢が見られる。
(4) 酸化銅を水素を使って還元 (鮮やかな銅色に)
還元を教える際、教科書では炭素での還元を扱います。酸化銅に活性炭を混ぜて、過熱し還元し銅を取り出すという方法が一番オーソドックスでしょう。
しかしこの方法は、出来上がった銅に未反応の炭素が混ざった状態で還元するため、全体的に赤黒く、生徒のイメージする「きらきら光るきれいな銅」が出てきません。(全体に赤っぽくなるので銅と判断できますが、いまいち感動に欠けますね。)
今回、紹介された水素を使った還元は、この問題をすべて解決する優れものです。
〇 実験の方法
① 燃焼さじ(メス)を変形させたものに酸化銅をのせ、図1のように水槽に設置して、トーチバーナーで加熱する。
② 図2のように水素だけ(※)が入った集気びんに、加熱した酸化銅を入れる。このとき、集気びんの口は水中に入れる。
※ 水素は別の水槽を使い水上置換法で捕集する。酸素と混ざると爆発の危険があるので上方置換法での捕集はしない方がいい。水素が100%なら爆発の心配はない。
③ 還元反応が始まると、酸化銅は赤色発光し、図3のように水槽の水が集気びんの中に入ってくる。
④ 反応が終わったら、取り出す。
図4のように銅が固まりとなっていて、磨かなくても金属光沢が見られる。
〈参考文献〉
左巻健男『新しい科学の教科書化学編第2版(現代人のための中学理科)』 (文一総合出版 2012)
(5) コンパクト ダニエル電池
次期の中学校学習指導要領(平成33年)には、『「電池の基本的な仕組み」については,ダニエル電池を取り上げること。』と明記されました。今回はサボテン用のミニ素焼き鉢とペッ トボトルキャップで作ったダニエル電池を紹介しました。
〇作り方
① サボテン用ミニ素焼き鉢の穴をセロファンテープでふさぐ。(図1)
② 素焼き鉢に硫酸銅水溶液と銅板をいれ、ペットボトルキャップに硫酸亜鉛水溶液と亜鉛板を入れる。(図2)
③ 導線とプロペラ付きモーターをつなぐ。(図3)
〇仕組み
・正極で Cu 2+が電子を受け取り、Cu が析出する。
Cu 2+ + 2e- → Cu
・負極で亜鉛板が溶け出し、電子を放出する。
Zn → Zn 2+ + 2e-
装置をコンパクトにすることで廃液処理が楽になり、個人実験が可能になります。
ボルタ電池に比べ、電圧も安定しており(約1.1V)、長持ちします。硫酸亜鉛水溶液の濃度はうすめで、硫酸銅水溶液を濃いめにしておくと、より長持ちします。
〈参考文献〉
山口晃弘「隔壁に植木鉢を使ったダニエル電池」 『TSC資料』(2017年5月) 他
これは、理科サークル「SCIENTIA」のニュース「Serendipity」から転載して編集したものです。
問い合わせ先:高橋政宏(SCIENTIA) m-takahashi★ra3.so-net.ne.jp(★を@に変えてください)