アルコールについてのあるたとえ話
今、ここに大変おいしそうなケーキが三つあったとします。それは、色もにおいも形も、まったくよくにていて、ちょっと見た目には見分けがつきません。そこへ、太郎君がやって来て「これはおいしそうだ」と、一つを食べてしまいました。ところが、何とそのケーキには毒がはいっていて、太郎君は死んでしまったのです。そこへ、花子さんがやって来たのですが、太郎君がケーキを食べて死んだとは知らなかったので、花子さんも「おいしそうだわ」と、もう一つのケーキを食べました。ところが、何と何と、このケーキにも毒が入っていて、かわいそうに花子さんも死んでしまいました。
さて、ここで問題です。もし、あなただったら、残る三つめのケーキを食べる勇気がありますか??
そして、実は「お酒」を飲むという事は、この三つ目のケーキを食べる事に、大変よくにているのです。それを化学の立場から考えてみましょう。
この三つのアルコールは、大変よく構造式がにています。「構造がにれば、性質もにる」というのは、有機物の性質についての一つの法則といってもいいのですが、たしかに、みんなよくにた性質なのです。みな中性で、水によく溶け、ナトリウムと反応すると水素を発生します。ところが、メタノールとプロパノールはいずれも有毒なのです。特に、メタノールの毒性は有名で、視神経がやられて、最後には死に至ります。そうすると、構造がよくにていて、二つまで有毒なら、化学の常識からすれば、最後の一つも当然有毒と考えるべきなのです。しかし、人間はこの最後の一つであるエタノールだけは、有毒などとは考えもしないで、「お酒」として飲んでいるわけです。それは、まさに三つめのケーキを食べる事だとは思いませんか?それでも、あなたは飲みますか??
そして、実はエタノールも正確にいえば、有毒だと考えるべきなのでしょう。つまり、酔っぱらうというのは、軽い「毒物中毒」と考えたほうが良いだろうと思われます。
酒はきちがい水?
お酒を飲むとどうなるか。酔い方の程度は、血液中のアルコール濃度がどれくらいだったか、という事と関係しているようです。血中濃度0.04%で手指がふるえて動作が鈍くなり、0.05%で自己批判が減り、衝動的になり、0.1%で眠気、0.2%で歩行困難、0.4%でこん睡状態、0.5%で急性アルコール中毒として死の危険が生じるといわれます。という事は、血液の量がたくさんあれば、当然それだけたくさんのアルコールを受け入れる事が出来る事になりますが、血液の量は体重に比例しますから、体重のある人はお酒に強い事になります。しかし、太っている人でもお酒に弱い人もいます。では、一体お酒の強さはどこで決まるかというと、一つには体内にアルコールを分解する酵素を持っているかどうか、という問題があります。これは人によってちがい、日本人ではこの酵素を持たない人が、3分の1ぐらいはいるそうです。外国人はもっとたくさんの人が酵素をもっているそうで、日本人の方が酒には弱い民族だそうです。ですから、もし貴方がアルコール分解酵素を持っていない体質ならば、お酒は弱いのだから飲まない方がいいという事になります。そして、それは次のような方法で、簡単に調べる事が出来ます。
『アルコールに対するバッチテスト』
ガーゼに綿をはさみ、これに消毒用のアルコールをしみこませて、二の腕の内側にばんそうこうではりつける。大きさは5cm角ぐらいでいい。約十五分程度たったらはがして観察する。もしあかくなっていたら、アルコール分解酵素が無い体質と考えていい。
どうしても酒がやめられない人には、抗酒剤という「お酒が嫌いになる薬」も開発されていますが、酒に溺れる人は、精神的にストレスがあったり心に問題を持つ場合が多いようです。「人、酒を飲む」ではなく「酒、人を飲む」という事にならないようにしたいですね。
酔うという事
酔うという事は、高度な精神の活動である、知性や理性の働きをつかさどる、大脳の新皮質にある、中枢神経の働きが抑制される事です。ですから、酔うと理性や知性は、働かなくなります。そして、その下にかくれていた本能が出てきます。だから「酒を飲むと人が変わる」というわけです。そこで、酒酔い運転などは、自分や他人の生命を危険におとしいれる事になりますので、違反者に対しては大変厳しい罰則があります。しかし、どの程度酔っていたら飲酒運転かという事は、前述のように血液中のアルコール濃度を調べなくてはわからないわけですが簡単ではないので、そのかわりに呼気中のアルコール濃度が、血液中のアルコール濃度に比例する事がわかっていますので、それにより警察は運転者の検査を行なっています。(呼気1リットル中0.25mg以上)
御存じですか??
未成年者飲酒禁止法
何と大正11年に制定定されているのです。親や酒屋、飲み屋が未成年者にお酒を飲ますと処罰されます。
酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律
「国民の節度ある飲酒の義務」とか「酔っ払って暴れたりして警官の制止を聞かないと罰金になる」などが決められています。
この記事は、退職されている山内一徳さんが高校に勤務のとき、化学の授業で生徒に配布したものです。以前「静岡・高校理科サークル通信」に掲載されましたが、今回「科教協静岡ニュース」№73(2024.6.13)に掲載しました。