科教協静岡の第15回研修交流会(2024.05.12)小学校講座で、野末淳氏(科教協埼玉)に報告していただいた記録です。
課題方式の授業づくり
<課題>を出して<自分の考え>をノートに書かせて発言させる「課題方式」の授業
「到達目標・学習課題方式」とは
三井澄雄氏(故人)が玉田泰太郎氏(故人)の授業を定式化したもので、この授業はアクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び)の一つだと思います。「到達目標・学習課題方式」では、「到達目標→具体的内容→教材」と構成を考え、授業計画を作ります。教科書とは違った展開となりますが、プラン集が販売されており、それらを参考に授業をしています。
課題方式の授業の進め方
① <課題>を出す。
前回のまとめなどの話はせずに、すぐに主発問である<課題>を出す。
「ある実験をしたらその結果はどうなるか」と問うもの。
② <自分の考え>をノートに書かせる。
7分程度の時間を取る。ここでじっくり考えさせることが最も重要。授業の開始時に前回のまとめをしていないので、<自分の考え>を書くときに、児童自らが前回までのノートを見返してそれまでの学習を振り返り、自分で考えるようになる。
③ 最初の予想分布を調べる。
<考え>と板書してから選択肢を提示する。(課題を出すときに、すでに選択肢を提示している場合もある。)最後に「迷っている」という選択肢を加える。
④ 討論させる。
それぞれの選択肢の考えを発言させる。まず「迷っている」児童に、次に、予想人数の少ない選択肢を選んだ児童から発言してもらう。ノートに書かれた自分の考えを読むことにすれば、多くの児童が無理なく発言できる。
⑤ 再び予想分布を調べる。
⑥ 決着をつける実験を見せて、<実験したこと・たしかになったこと>を書かせる。
実験で決着をつける。教師が解説せず、目の前の現象から学ばせる。児童はノートに見たことを見たとおりに記録し、どの考えが正しかったのか考察する。
⑦ <実験したこと・たしかになったこと>を発表させる。
⑧ ノートを集める。
次の授業までにノートすべてに目を通し、授業のねらいとなることが書かれている部分にアンダーラインを引き、必要に応じて短いコメントを添える。
ノートの役割
毎時間の児童自身の思考が記されたノートになっている。板書を写す授業ではないので、同じノートは存在せず、自分だけのノートになり、児童は意欲的・主体的に取り組むようになる。ノートはその児童の中身でもあるので、教師はその記述を見て授業展開を考えながら発言を促す順序を決める。また、ノートを通して児童の理解度を把握することができる。
発言のさせ方
児童が発言するときは皆に向かって話をするように促す。教師は司会としてふるまい、児童同士の学び合いの機会とする。
指名の工夫
あらかじめ発言させる順番を考えておく。
◎ 4年生の3学期「水のすがた」(右の表)の第9時間目の授業映像を見ました。その中から一部紹介します。
<課題> 「固体のスズも融点より温度を高くすると液体になる。」
<予想> できる。 17人
できない。 3人
まよっている。 3人
<討論>
T まず、まよっている人から。
C 固体の食塩はできた。今回も固体だけど金属でスズだからまよっている。
C 金属はすごく硬くて火でやっても大丈夫だと思うし、どうやってもできない。
C 食塩はできた。試験管が曲がるほど熱いガスバーナーだったら液体にできる。
C 前回も液体にできたし、今回も固体だからできる。動画でスズみたいなものを融かして固めていたからできると思う。
C ガスコンロの火の温かさが融点に達していないだけで、もっと強い火力でやれば普通に液体になると思う。
T なんかすごい難しい言葉が出てきたけど、意味わかる?グループで確認して。
<グループで確認>
グループ内でお互いに説明し合う。確認し合ったことを全体の場で発表する。
<グループ討議>
討議した後自分の考えをノートに書く。この時教師は机間巡視をしながら発表指名の順番を考えておく。
<発表>
T 立って(ノートを)読んで。
C 固体は全部融けると思います。理由は食塩も融けたので金属も融けると思います。
C できると思う。理由は前に氷や塩なども融点があり液体にできたし、固体には必ず融点があると思った。金属の融点まで温度を上げれば液体にできると思います。
<予想の確認>
「まよっている。」が0人になった。
<演示実験を見せる>
T 「できる。」っていう人はどうしろって?
C 温度を高くして融かす。
C 融けてる! 塩よりも融点が低い。
T いま液体になったね。これをこぼすと温度は?
C 低くなる。
T そうしたらどうなる?
C 固体になる。
C 固体になった。金属は温度が上がったり下がったり激しいから。
<「見たこと・たしかになったこと」を書く>
C 野末先生がスズを試験管に入れました。そしてガスコンロに火をつけました。しばらくすると金属が融けていました。つまり食塩より金属の方が融点の温度が低いことがわかりました。そして、金属のスズの融点は232℃とわかりました。そして金属のスズにも融点があるとわかりました。
<ノートを回収>
<児童実験>
グループ内で順番に一人ずつ、スズを液体にし、再び固体に戻す実験を行う。
授業者として、子どもたちが見て確認し、実感することが大事だと考えている。この実験では「融点」について考えさせることを目標にし、「融点」は「固体でいられなくなる温度」とした。自分でも調べさせると、融点にもいろいろあることに気づく。
授業では子どもたちが考えたくなるものを課題にするようにしている。
発表の場では、子どもたちの意見を整理するが、教師側がまとめてしまわず、友達の考えを戻してあげて、自分の考えを更に深めさせる方向に導くようにしている。
なお、実験技能を身につけさせたいときは、しっかり時間をとる。(作業課題)
また、課題方式がとれない単元もある。
◎ 授業映像の中の子どもたちは生き生きと活動していました。「見たこと・たしかになったこと」のノート内容も一人分しか紹介できませんでしたが、単なるまとめではなく、自分が見たことを順を追って詳しく書かれていて、あとから見直した時もどのような授業内容で、自分に分かったことは何かがしっかり書かれていました。
(執筆:科教協静岡 小長井華子) 第15回「研修交流会」の内容 → <別に掲載の記事>