10月29日(土)の午後、静岡理科の会(科教協静岡主催)で、土壌動物の学習と実習・観察をして、10人余の参加がありました。講演では、土壌動物の生態系での機能や分類、その土壌動物が外来種に脅かされていること等、興味深いお話を聞くことができました。また、クマムシを探す実習では、見つけることは難しかったですが、道ばたに生えているギンゴケの中を双眼実体顕微鏡で観察することは、おもしろいものでした。
講演「足元の小さな世界~土壌動物の機能と多様性~」
講師 岸本年郎(きしもととしお)氏
ふじのくに地球環境史ミュージアム研究員(教授)
講演では、まずスライドで大人の足型1個分の中に動物の名前や数字がかかれているものが示されました。これは、明治神宮の森(照葉樹の森で足元はふかふかの落ち葉がある)のデータであり、大人の足型1個分の広さに、センチュウは7万匹以上、ダニは3,280匹、ヒメミミズは1,840匹…など様々な種類の土壌動物が数多く住んでいることを示していました。
生物には、植物を草食動物が食べ、その草食動物を肉食動物が食べ、というように食物連鎖の関係があります。これは食物網ともいい、生食(せいしょく)連鎖です。さらに、生物は死に枯れていき、生物の排泄物や落ち葉もたまります。これらを食べ糞をし、さらにその糞を食べ分解するという腐食連鎖を行っているのが土壌動物です。土壌動物は、生態系の中で非常に重要な役割をしているといえます。
土壌動物の大きさについては、体の幅が0.1mm未満は小型、0.1~2mmが中型、2mm以上が大型とされ、小さなものが多いです。土壌動物の分類については、生物界最大の大所帯といわれる(先生の専門の)ハネカクシ科においては世界で58000種、日本では2300種あります。また、そのすべてが土壌動物ではないが、線形生物門・軟体動物門腹足網・環形動物門貧毛網・扁形動物門・節足動物などに多くの種があります。しかし、これらについては研究があまりされていないため、実際にはさらに多くの種があると考えられています。
近年は、土壌動物においても、外来種による絶滅の危機も調査されています。例えば、小笠原諸島に生息するオガサワラフナムシが、外来種のリクヒモムシにより食べられています。今後オガサワラフナムシを絶滅させないためには、現在リクヒモムシが入っていない島に入れないことが大切となります。
さらに、地球上の個体数が2京匹といわれるアリについて、アリは土を耕すエンジニアといわれ、年間1ha当たり13トンの土を耕すことなどの話もありました。
最後の質疑の時間では、ハネカクシのハネのたたみ方や分解者のとらえについてなど、参加者からの質問に答えていただきました。(執筆:鈴木)
講演・観察「街中のクマムシを探す」 講師 篠崎勇さん 科学教育研究協議会委員
1. クマムシを探したことがありました
クマムシは、土壌動物です。(緩歩動物 - Wikipedia)
そこで、かつて私はクマムシを捕まえるために、ツルグレン装置をペットボトルで自作して探しました。
しかし、トビムシや線虫は見つかるのですが、何回やってもクマムシは見つかりませんでした。
その理由は、クマムシの生態からくるものでした。
皆さんはクマムシと聞くと「宇宙空間にさらしても、強い放射線を当てても、高温でも低温でも死なない最強の生物」というイメージをお持ちだと思います。でもそれはクマムシが「乾眠」している状態ならではのことです。クマムシは水のある環境で動く生物で、水から出ると乾燥・収縮し「不死身の乾眠」となるのです。ですからツルグレン装置で熱を加えると動かなくなってしまうのです。また、乾眠しないとその寿命は半年ほどといわれています。
2.ではクマムシを探すには?
クマムシは身近なところにいます。道端に生えているギンゴケにかなりの確率で生息しています。ギンゴケ(https://pino330.com/archives/19361[ギンゴケとホソウリゴケの見分け方])を採取したらすぐ見るか、保存するなら自然乾燥させて乾眠状態にします。
観察するには双眼実体顕微鏡(20倍程度)を使います。シャーレにギンゴケを少量取り、水をかけて観察します。乾眠状態の個体は動き出すまで15分ほどかかります。顕微鏡下でクマムシをスポイトで取り、ろ紙に載せて乾燥させれば乾眠クマムシの標本になります。
3. クマムシとは
クマムシは頭部の他に4つの節を持ち、それぞれから1対の足があり、8本足で水中をゆっくり移動する緩歩動物です。節を持ち脱皮をするので、系統樹の中では、線形動物と節足動物の中間に位置する動物となります。その化石は古生代カンブリア紀の地層から見つかっています。
緩歩動物と呼ばれるくらいで、その動きは非常にゆっくりで、顕微鏡下で視野に入っているのになかなか発見できないことがあります。「何か動いているぞ!」と思ったらピントを調節してください。それが見つけるコツです。
当日の観察結果
参加者がそれぞれ双眼実体顕微鏡を使って1時間近く探したのですが、動くクマムシは結局見つけられませんでした。ただ、右の顕微鏡の画像にあるように、水を吸って膨らんだ動かないクマムシと思われるものを見ることができました。半透明であり、それとわかって探さないとなかなか見つけにくい、小さいものでした。
ギンゴケを持ち帰って探してみるという参加者もありました。ただ、ギンゴケについていた砂粒や道路の白線から剥がれたビーズなど、双眼実体顕微鏡で見た世界はきれいで、それはそれで感嘆しました。
(長谷川)
担当:科教協静岡 長谷川静夫 skrc@sf.tokai.or.jp