地区中学校の理科教科書は,昨年度まではD社でしたが,本年度からK社が採択されました。出版社の変更に伴い,単元をどのように進めるのか本校でも話し合いがもたれ,慣れたD社の流れを基本としつつ,連携を取りながら進めることを教員間で確認しました。
私は2年生を担当しているのですが,さっそく熱分解の進め方がD社とK社で異なることに気が付きました。D社は酸化銀の熱分解から炭酸水素ナトリウムの熱分解に入り,最後にカルメ焼きを持ってきていますが,K社はその逆で,最初にカルメ焼きを紹介し,その後,炭酸水素ナトリウムの熱分解,酸化銀の熱分解という流れになっています。今回,私はK社の流れを参考にして授業を進めてみました。ちなみにこの文章を書いているときは,3時間目が終わったところです。
1時間目 状態変化と化学変化
砂糖の加熱を演示しながら「状態変化と化学変化について説明しなさい」と問い,生徒に記述させました。生徒は,状態変化は「融ける」,化学変化は「色が変化する」とか「成分が変わる」と答えました。数人ですが,状態変化では「粒子の動きが変わる」,化学変化は「粒子そのものが変わる」と粒子で考える生徒もいました。中1で状態変化を学んだので,中2では状態変化と化学変化の違いについて粒子を使って説明できるようになればと考えています。
2時間目 カルメ焼き
1時間目に砂糖を使ったので,その延長でカルメ焼きを作りました(図1)。カルメ焼きを熱分解の導入にもってくることで,生徒たちはとても楽しく熱分解の単元に入ることができました。
3時間目 炭酸水素ナトリウムの熱分解(実験計画)
前時の様子を撮った写真(図1)を見せながら「なぜ,カルメ焼きはふくらんだのか」という疑問を生徒から引き出して,授業が始まりました。自分の考えを書かせると,「加熱されて空気が出たから」,「水蒸気が出たから」といった生徒がいる一方で,「重曹卵のせいじゃないか」,「カルメ焼きの穴はホットケーキの穴と同じだと思うから,ホットケーキにも炭酸水素ナトリウムが使われている」といった意見もありました。そこで,ホットケーキミックスの成分表示を見せると,生徒はベーキングパウダーが載っていることや,ベーキングパウダーの成分が炭酸水素ナトリウムであることに気づいていきます。その後,みんなの考えを聞いて分かったことを書かせました。すると,全ての生徒が,「カルメ焼きが膨らむ原因が炭酸水素ナトリウムである」と考えるようになりました。しかし,炭酸水素ナトリウムがどうなったかと問い直すと,「酸素が出た」,「炭酸だから二酸化炭素が出た」「水素と書いてあるから水素だよ」と予想がバラつきました。そこで,「どんな気体が出たかを確かめるにはどうしたらいいか」と学習問題を出し,実験を計画させました。
単元計画の違いによる思考の変化
今回,炭酸水素ナトリウムを最初にもってきて重点を置いたことで,酸化銀を最初に置いたときとは違った生徒の思考に触れることができました。
どちらの授業の進め方のほうが良いといった答えを出すことはできませんが,単元計画によって生徒の思考の表れが変わってくることに楽しさを感じました。
分子モデルの必要性と留意点
熱分解と電気分解が終わると化学式を学びます。目には見えないとても小さな事物・現象を扱うためにモデルは欠かせません。
例会では,どのようにして化学式を説明しているかが話題に出ました。分子を教えるには,手が2つの酸素さん,1つの水素さん,4つの炭素さんといったように生徒を原子に見立てて説明したり(図2),模型を作って説明する例が挙げられました。また①分子,②分子を作らない物質,③貴ガスをそれぞれ人に例えて,①「分子」という仲間をつくる者,②気の合う仲間で群れる者,③一人でもへっちゃらな者と説明する仕方もあることが紹介されました。モデルで表すととても分かりやすいですが,全てを説明できている訳ではないことや,間違った認識を生徒に与えてしまうことに留意する必要があることが確認されました。実際との違いやモデルを使うねらいを明確にすることで,モデルの効果が高まると感じました。(執筆:杉本)
この記事は、理科サークル「SCIENTIA」のニュース「Serendipity」№70から引用し編集したものです。問い合わせ先:「SCIENTA」高橋政宏 m-takahashi★ra3.so-net.ne.jp(★を@に変えてください)