1)トウモロコシを用いた遺伝の実験
・ スイートコーンの品種ピーターコーン(白と黄色の混ざったバイカラー粒種)は、同じ品種の黄色のゴールデンコーン(AA)と白色のシルバーコーン(aa)をかけ合わせた雑種F1(Aa)である。
・ このトウモロコシは雌穂の絹糸に、雄穂から来た花粉がついて自家受粉(Aa同士)し、雌穂の付け根に1つの実F2ができる。ただし、トウモロコシの粒の色は胚ではなく胚乳の色で、 胚乳は重複受精で3倍体になるが、
その粒の遺伝子型はAA、AAa、aaA、aaaとなり、3:1の割合で黄色:白が見られる。スーパーや100均でスイートコーンを購入し、黄色い粒と白い粒を数えると見事に3:1になる。
(注)袋で密閉したままでも期間がたったものは、白の粒が黄色に変色してしまうので注意。
2)トウモロコシを教材に用いる理由
・ 生徒のアンケートを見ると、 教科書にあるエンドウ豆を実際に育てた経験はほとんどなく、 食べたり見たりしたときにも形質のちがいにあまり興味を抱いていないことがわかった。
・ 小中学生は素朴概念にそって思考し、体験を通して学ぶ特性がある。 普段から好んで食べる食材で、遺伝の規則性を学ばせたいと考えた。
・ トウモロコシが、教材として優れている点
① 私たちが日常的に食べている身近な食材である。
② 古代から品種改良が行われてきた植物である。
③ 雑種で黄粒と白粒が3:1で現れる。(メンデルの分離の法則)
④ 1個体に数多くの粒ができるので、サンプル数が多く、数的に客観性をもたせられる。
⑤ 遺伝子組み換え作物の輸入が許可されていて、 食の安全を考える良い教材になる。
(注)メンデルが調べた7対の対立形質には、(トウモロコシの粒のような)胚乳の色はない。
3)「遺伝の規則性と遺伝子」の学習の流れ
① 生物はどうやってふえるのか:「食物に発生する微生物は自然に生まれるものか、外からやってくるものか」(予想)→単細胞生物の増え方(無性生殖)
②③ 生物はどうやってふえるのか:「スーパーで売られているウズラの卵を暖めたらヒナになるか」(予想)→有精卵でなければ個体は生まれない(有性生殖) / カエルの発生で、細胞の分化
④ 増えすぎてしまったウサギをどうするか : オーストラリアにもちこまれたウサギが大繁殖したため、 ウイルスを用いて駆除したが、 ウイルスに抗体があるわずかなウサギのため再び増殖(有性生殖の多様性)
⑤⑥ クローン生物はどうやって生まれるのか:核の染色体には、生物の設計図であるDNAがある / クローン技術の問題点と良さ
⑦⑧ 植物はどのようにしてふえるのか:カボチャの花粉管の伸長を観察 / 受精によって胚ができる
⑨⑩⑪ 親の形質はどのように子や孫に伝わるか:メンデルの研究結果から遺伝のしくみ / トウモロコシの粒を数える実験 / ヒトの形質と遺伝(遺伝で決まること、決まらないこと)
⑫ 遺伝子はどのような構造をしているのか: 紙ひもと輪ゴムを用いてDNA模型(お土産)をつくる
⑬⑭ 品種改良と遺伝子操作:DNAの複製のしくみと突然変異 / 旧来の品種改良と遺伝子操作 / 医学分野への利用 / 日本に入ってくる多量な遺伝子組み換え作物(GM作物)
4)「食の安全性」について、子どもに深く考えさせたいこと
日本の遺伝子組み換え食品は、実質90%も表示義務がないとされている。
・ 家畜の飼料として使用する場合は表示義務がない。
・ 検査で組み換えDNAやタンパク質が検出できない場合は表示義務がない。
・ 原材料の上位4番目以降は表示義務がない。
・ 重量割合5%未満なら表示義務がない。
・ JAS法、食品衛生上、原材料表示の必要のないものは表示義務がない。
・ 5%以内の遺伝子混入は認められている。 (IPハンドリング証明書がある場合)
紹介:西村紳一郎さん s.nishimura0304★icloud.com(★を@に変えてください)
もとのレポートは3ページで、さらに、生徒の記入もある授業プリントの22ページ分の資料があります。(発展的なコラムもついています) この記事の文章化の責任は、科教協静岡にあります。