「化学変化とイオン」の学習は、中学生が理解する上でとても難しい単元です。
それは、目に見えないイオンの粒を想像して、目に見えない電極板での電子のやりとりを考察しながら、電気分解がどうやって起こるか、電池の中でどのような化学変化が起こって電流が生じるか、酸・アルカリの中でイオンがどのように反応するか、といったことをつかむ必要があるからです。
これをしっかりと理解するために、下のことが大切だと考えています。
① なぜ原子はイオンになるのか
・原子の電子配置をつかみ、化学変化は電子のやりとりであることを理解していること
・物質は、最外殻電子をうめなくては、不安定で化学変化してしまい、存在できないこと
・水の構造を知った上で、水が原子を電離させるしくみを理解すること (水和も含む)
② 電極板で何か起こっているのか
・電流の正体は電子の粒であり、+極、-極では電子の粒の偏りが生じること
・イオンは電気を帯びており、電極板に引きつけられること (自分の目で電気泳動を確認させる)
・あえて手回し発電機で電気分解させ、力感をもって物質の析出を実感させるのもよいだろう
・常にモデル図で説明させ、水溶液の中で起こることを想像させる
③ 電池では、金属(など)がイオンになるときに放出する電子が回路を移動している
・イオン化傾向を深く理解し、イオンになるのはどちらか確実につかむことができる
・この2種類の組み合わせなら、こうなるに違いないと確信をもって実験することが大切である
これらのどれかが欠けてしまうと、子どもにとって大変な困難を感じる単元になります。
しかし、世の中の物質はほとんどが「イオン」の状態で存在していて、科学的な思考のツールとしても非常に大切な学習です。身近なものを用いながら、この単元の学習が好きになるようにしていきたいと思っています。
「化学変化と電池」の実験
○ 塩化銅水溶液にアルミを入れると、銅が出てくるのはなぜだろう
青色がうすくなることから、銅イオンが減り、銅が析出していることを予想する
入れたアルミがボロボロになることから、水溶液中にアルミニウムイオンになってでていく
※ 課題解決的に授業を行い、モデル図を書いて説明させる
(アルミの質量が減っていることを、検証実験とする)
※ イオン化傾向を確実に押さえる
○ 金属の組み合わせを変えて電流がとり出せるか調べる
イオン化傾向を参考にして、予想を立ててから実験を行う
検証を通して、イオン化傾向と電子の移動の理解をさらに深める
○ 自分で使用したアルミパック(アルミのご飯用パック)を洗浄させて電池をつくる
○ 備長炭電池をマグネシウムリボンでつくり、電池の小型化を感じさせる
(リチウムなど、イオン化傾向の大きな金属を活用することで大きな電流が得られる)
このような授業を行うことで子どもたちに、「ふーん」で終わらせない単元にしたい。
まずじっくりと水の性質に向き合い、周期表の意味を感じさせ、共有結合・イオン結合を時間をかけて理解させ、イオン化傾向をつかませる。それが予想を立てられることにつながり、各実験の意味が出てくると私は思います。
そして毎日のように使っているアルミパックで電池になる、果物で電池が作られる、といった身近な体験を重ね、電気精錬といった生活に役立てられていることなどを学習する。そして科学者たちの思考や挑戦にふれながら、電池が開発されてきた歴史を感じさせていく。見えない、わからないという、暗闇の中を進むような学習でなく、見えない世界が1つずつ見えてくる喜びのある学習が、その単元、その教科を好きになる原動力になっていくと思います。中学の学習指導要領の枠は大切にしつつも、子どもの「なぜだろう」という疑問に応える授業展開を心がけていきたい。
ワークシートでは、できるだけ問題提起・予想・検証・まとめの展開という子どもの思考に沿う内容であること、実験は比較検証できること、イメージをもつ手助けができること、学習したことがどれほど価値のあることか(理科の有用性)を感じられるように心がけて作成しています。
以上は、科教協静岡「研修交流会」で紹介されたものです。
紹介:西村紳一郎 (理科サークル「SCIENTIA」)
問い合わせ先:「SCIENTIA」高橋政宏 m-takahashi★ra3.so-net.ne.jp(★を@に変えてください)