電流と磁界の授業は、生徒にとってわかりにくい部類に入る。磁界が目に見えないこと、磁石の磁界は理解しやすいが、電流の磁界が理解しにくい。磁石の磁界と導線に流れる電流の磁界の相互作用がわかりにくい。そのため、右ねじの法則や左手の法則だけが一人歩きしてしまう傾向にある。
そこで、
・導線の回りの磁界(右ねじの法則)を、電磁石、モーターの授業までのつながりをもてるように単元構成した。
・磁石の磁力線から類推し、磁界の中の電流(導線)にかかる力を考える(磁力線にこだわる)ようにした。
1 磁石の性質 (1.5時間)
[生徒個人実験] 方位磁針を使い、棒磁石の磁界のようすを調べる。
2 磁力線のようすを考える (0.5時間)
2つの磁極での力の及ぼし合いと磁界(磁力線)との関係
3 エルステッド先生の研究 (3時間)
[仮説実験授業研究会の授業書「電流と磁石」内のお話「エルステッド先生の研究」](以下は要旨)
・ボルタが電池を発明(1800年頃)して以降、この電池を使っていろいろな実験が始まった。
・エルステッドや他の人が、電気と磁石に関係がありそうだと実験を繰り返したが、予想が当たらない。
・エルステッドは最上級生の講義で、針金に流す電流が方位磁針を動かすかの実験を始めた。(1820)
[課題] 電気が流れると、方位磁針の針のN極やS極を引っ張ったり、押しやったりすることがあるでしょうか。方位磁針のすぐとなりに南北に針金を並べて、その針金に電流を流したら、電気の通った針金が方位磁針のN極やS極を引っ張るでしょうか。 → 動かないと確認
[生徒実験] 電流を流した導線の近くで方位磁針が動くことがないか確かめる。
[実験整理問題] 図のア~エで方位磁針がA、Bどちらに動くか予想させ、演示実験で確かめる。(生徒実験は正確でない場合が多いため)
[授業書のお話]のつづき
・エルステッドは学生の前でのこのような実験で、
電流を流している針金の位置によって、磁石の針が動くときもあるし動かないこともあって、困った。
・エルステッドの予想は、おそらく「電流が磁石のN極を引っ張るか、S極を引っ張るかだろう」と。
・3ヵ月後、順序よく調べていって、ついに『電流が流れると、磁石のN極は、ちょうどその電流の回りに、渦巻きができている時のように、その電流の方向と直角の方向に動かされる。』という規則を見つけた。
[演示実験] 鉄粉と方位磁針で、電流の流れる導線の回りにできる磁界を見せる。 → 右ねじの法則
4 コイルと電磁石 (2.5時間)
① 一巻きの導線(下図) 方位磁針が動く向きの予想を迷う生徒が多い。
② 多重巻きの導線 輪が一重の時と比べて、輪のなかの磁界の強さは?
③ コイル(下図) 電流を流すと方位磁針はどの方向を向くか。
予想の後、鉄粉での磁界の模様を確認する。
磁界の向きが逆向きの時は、磁力は弱め合う。同じ時は、磁力は強め合う。
④ コイルと電磁石 磁力線の模様、巻き数と磁界の強さ、コイルの中に軟鉄棒を入れると。
5 磁界の中で電流が受ける力(フレミングの左手の法則) (4時間)
① 磁石の磁界の中でアルミ棒を置き電流を流す(下図が装置)
② アルミ棒が動いた理由を考える(下図)
(磁石の時と同様に)電流の磁界の向きと磁石の磁界の向きが同じ時、反発する。逆の時、引き合う。 → 右に力を受ける。
バイブラランプを見せて、フィラメントがなぜ揺れるかを左手の法則で確認する。
③ ブランコ型導線(アルミ棒)が動いた理由を考える。
④ クリップモーターづくり
⑤ モーターのしくみ・整流子
【当日の話し合いより】
・コイル(多重巻き)から入って、1本の導線が作る磁界に進むのでは、なぜがない。反対に1本から入っていくと、多重にした時の予想が学んだことを使って考えることができる(わかったことが使える)。
・エルステッドの実験のとき、方位磁針の動きは電流を流した瞬間の向きを確認させることが大事。磁針は左右に揺れて生徒が混乱する。
・クリップモーターのブラシに、ヒートン(ねじの頭に輪が付いた吊り下げ金具)を使っている。
・コイルを生徒に作らせると、軸が曲がってうまく回らないことが多い。軸をまっすぐにするため、コイルの絵を描いた紙を用意し、その上で作らせる。(下図)
・整流子部で導線の半分側を削るのはむずかしい。軸の導線はまず全て削った後から、導線の半分側をマジックで塗る方法を教わった。
・左手の法則の学習の後にクリップモーターを作るが、それだとモーターがコイルの磁界と磁石の磁界の反発で動く説明になってしまう。左手の法則で説明できるモーターがあると良い。
→ ブラシにヒートンを使って、3Vでまわる銅線で一巻きのモーターができた。(片山)
「静岡理科の会」1月例会にて (発表 片山昇)
レポートはA4版の7ページで、それから抜粋と編集をしました。 (科教協静岡 長谷川静夫)