講演「津波堆積物と地震・津波の予測」の記録
講師 菅原大助氏 (ふじのくに地球環境史ミュージアム准教授)
「静岡理科の会」の例会で、1時間半程度の短い時間でしたが、講演をしていただきました。その要旨を紹介します。
・東日本大震災(2011年)では、海岸線付近の津波の流れは深さ10m、速さ10m/sで内陸の4~5kmまで達した。 津波で土砂の移動(侵食作用)で陸地が消失し、内陸3~4kmまで土砂が堆積した。 その厚さは多いところで30cm以上となった。
・津波堆積物が知られたのは約60年前、本格的な研究は約30年前から。
・東北地方を襲った「貞観津波(869年)」は、古文書「日本三代実録」に大和朝廷の役人の報告がある。
・貞観津波の堆積物は、仙台平野の泥炭地に堆積した海岸砂丘の砂として、1987年頃に発見された。
・貞観津波と東日本大震災の津波の浸水域はほぼ重なっている。(貞観津波の堆積物は内陸3kmに見られる)
・津波堆積物は、歴史記録(古文書では1,000年程度)がない時代・地域でも、数千年以上も過去に遡って情報を得ることができる。
・津波の数値シミュレーションの利点は、条件を変えて調べることができる(地震の起こり方の違いで、津波がどのように変わるか)、 観測や実験が難しい現象を詳しく調べることができる(津波でどのように土砂が動き、地形が変わり、地層ができるか)。
その後、実際の津波堆積物を、日本各地やロシア沿海州(日本海での地震の津波堆積物)、国後島(同千島海溝での津波)で調査された様子や研究の進め方を話されました。
また、安政東海地震(1854年)の津波で、南伊豆町入間の津波痕跡高が特別に高いことや地形の変化が、 コンピューターシミュレーションの結果とは合わない(それほど高い津波高や地形の変化が説明できない)が、 南海トラフ巨大地震(安政地震はこれには該当しない)のシミュレーションではありうるという話もありました。
【(注)この状況をどう考えて良いのかわかりませんでしたが、今後の研究の進展を臨みたいと思います。 最近のテレビ番組の中で、地震に伴う海底地滑りで津波が特別に高まるという話もありました。】
静岡沿岸に何mの津波が来ると言っても、そのしくみと訳がわからなければ恐いねという程度で終わりがちで、 また不用意に不安を煽り、地震があったときのデマが生まれる原因にもなるでしょう。 信憑性を高め理解を深めるために、今回のお話の津波堆積物の調査やシミュレーションも、津波高予測の背景にあることがわかりました。 子どもたちにもそれらを含めて紹介できたら良いと思いました。
文責 科教協静岡 長谷川静夫