12月に、静岡小学校理科サークルの2回目の例会が開催されました。そこでの報告の1つです。
小学校4年「水のすがたとゆくえ」の単元をこうする
(いろいろな物の三態変化をやった後で,水を取り扱う)
教科書で学ぶ「水のすがたとゆくえ」の単元では,気象の学習も同時に扱われます。これは,ものの状態変化と気象学習をすることになります。そのため,洗濯物の水分が100℃で気体になっていると考える子どももいます。また,状態変化も水だけの扱いになり,氷・水・水蒸気という個別の名前を持った水の状態を学習しますから,水が三態変化をしたと考えにくくなります。このような水の循環と物質の三態変化は,同じ単元として学習することには無理があります。そこで,「ものの三態」と「水の循環」の学習は,別単元で行うこととしました。
三態と気象は分けて学ぶ
教科書で学ぶ「水のすがたとゆくえ」の単元では,気象の学習も同時に扱われます。これは,ものの状態変化と気象学習をすることになります。そのため,洗濯物の水分が100℃で気体になっていると考える子どももいます。また,状態変化も水だけの扱いになり,氷・水・水蒸気という個別の名前を持った水の状態を学習しますから,水が三態変化をしたと考えにくくなります。このような水の循環と物質の三態変化は,同じ単元として学習することには無理があります。そこで,「ものの三態」と「水の循環」の学習は,別単元で行うこととしました。
ものは状態が変化するイメージを
新しい学習指導要領にも「水を熱していき,100℃近くになると沸騰した水の中から盛んに泡が出てくる。児童の中には,この泡を水の中から出てきた空気であるという見方や考え方をしているものがいる。この泡を集めて冷やすと水になることから,この泡は空気ではなく水が変化したものであることに気付くようにする。このことから,見えない水蒸気の存在を温度の変化と関係付けてとらえるようにする。」と書かれています。しかし,気体の学習を十分に行っていない4年生には無理があります。そこで,「ものは,状態変化をするんだ。」というイメージを子ども達に持たせられるような指導計画を考えました。三態変化の学習では,液体⇔気体の学習から始めるプランを多く見ます。しかし,気体はイメージが難しく液体⇔気体の状態変化を視覚的にとらえにくいことが問題になります。可逆性がハッキリ見えやすい固体⇔液体の課題から始めるたいと考えています。
同じ条件で状態変化を比較する
今回の実践で大切にしたことは,「同じ条件で状態変化を比較すること」です。実験セットや使う器具がちがうと子ども達のイメージは,違ったものになります。できるだけ同じ条件で実験を行い,子ども達のイメージを状態変化そのものに集中できるようにしようと考えました。固体から液体の実験では,直径12ミリ長さ120ミリのパイレックス試験管を使います。全て98℃の水で加熱します。バーナーでの加熱は,アルミホイルで放熱を減らした装置を使いました。
(あぶない実験は、すぐに逃げられるように立って行う。)
1) 固体から液体へ
課題1 固体のろうを試験管に入れて90℃水で加熱します。固体のろうは,どうなるか観察しましょう。
生活経験があり,変化の明確な固体のロウから学習に入りました。白かったロウが,透明な液体に変化することが確実に分かります。また,温度を下げると再び真っ白な固体のロウになると歓声が上がります。
課題2 固体のスズを試験管に入れて90℃水で加熱します。固体のスズは,液体になりますか。
子ども達は,スズも90℃の水に入れると液体になると考えている場合があります。ロウと同じ条件で実験することが大切です。
実験をしますが,何も変化はありません。もっと高温で加熱しようということになり,ガスバーナーを使うことにしました。(アルコールランプでは,できません。)あっという間に液体に変化しました。ロウとスズの液体になる温度の違いを明確に印象づけることもできます。
【編集注】融点はスズが232℃。420℃の亜鉛でも可能。鉛はやや毒性がある。液体の金属を板にたらすと、焦げて高温を実感できる。
課題3 固体の食塩を試験管に入れて90℃水で加熱します。固体の食塩は,液体になりますか。
課題3も同様に90℃の水で加熱することから課題にします。食塩とスズを試験管にほぼ同量入れて加熱すると融解するまでの時間や試験管が赤くなり変形することからも,食塩の液体になる温度とスズの液体になる温度がちがうことに気づきます。
(この食塩の液化は、コンロでは時間がかかって不適当。ガスバーナーならば数分でできる。)
【編集注】食塩の融点は約800℃なので、加熱後の試験管が普通に見えてもかなり高温のため、触れないように注意する。この試験管は熱で変形し再利用できないので,廃棄することになる。
2) 液体から気体へ
気化の実験では,水ではなくアルコールから始めます。アルコールの利点は,試験管やビニル袋で気化液化の可逆性を確かめられることです。水の沸点は,100℃のために水を状態で保つことは難しいです。しかし,エタノールの沸点は78℃ですから加熱した水の中で液体状態を保てます。気体を確認できない水と比べればアルコールはとてもよい教材です。
課題4 液体のアルコールを注射器に入れて90℃水で加熱します。液体のアルコールはどうなりますか。
これまでの学習から,子ども達の多くは,温度が上がって体積が増えることを考えます。そこで実験をします。
注射器には,気体が入っていないことを確認します。ピストンが動き始めると泡が見えてきます。
子どもからは「空気が入っている。」「空気が出てきた。」と声があがります。そこで教師は,「注射器の中に空気はあったのかな。」「注射器に空気が入ったのかな。」問いかけながら,注射器をビーカーから出します。するとアルコールの気体は,見る見る体積が減少しすべてが液体にもどり,アルコールの気体のない状態になります。もう一度90℃の水で加熱します。ピストンが上がり,同じことがくり返されます。子ども達には班で実験させました。その後で教師が演示しながら液体のアルコールが気体になったことを説明します。液体のアルコールが気体になったことを子ども達に伝えます。注射器の中にアルコールの気体が泡になって見えることを確認しましょう。
課題5 液体のアルコールをビニルふくろに入れて90℃水で加熱します。ビニルふくろはどうなりますか。
課題4で,液体が気体になることを初めて学習しました。液体⇔気体は,分かりにくい内容ですから,同じことをもう一度行います。ビニルふくろには,5mlほどアルコールを入れて空気を完全に追い出します。液体のアルコールが気体になって,体積が増え,袋が膨らむことは考えることができます。分かりにくい液体⇔気体の状態変化を確実なものにします。
課題6 液体の水を注射器に入れて90℃水で加熱します。液体の水はどうなりますか。(沸騰)
「気体のアルコールが気体になったように,液体の水が気体になってピストンを押し上げる。」という考えもあります。しかし「ロウ・スズ・食塩のように,固体から液体に変化する温度は違っていた。だから,水とアルコールは違うものだから,気体になる温度も違うと思うから見当がつかない。」という意見も出ました。
さっそく実験で確かめると気体にはなりません。「どうしたら液体の水は,気体になるの?」「もっと温度を上げる。」「ガスバーナーを使う。」子ども達はすぐに意見を出します。
フラスコに水を入れて,ガスバーナーで加熱します。100℃近くまで温度が上がります。水は100℃にならないと沸騰しないことを伝えます。
液体のアルコールが気体になることを体験していますから,水中に見える泡を空気だという子どもはいませんでした。水がやっと気体になったことで,水も気体になるんだと実感できます。アルコールの液体⇔気体の実験を先行させると水の気化も子ども達はすんなり受け入れてくれるようです。液体⇔気体の実験は,まずアルコール,そして水と進めることが大切です。
なお課題1~6の前後で,次のような内容を扱いました。
0時間目(2時間)
◎ 固体(アルミニウム・ろう)・液体(水・アルコール・油)・気体(空気・酸素)を実物にふれながら紹介する。
◎ ガスバーナーとアルコールランプの使い方・マッチの使い方を学習しました。
3) 液体から固体へ
課題7 液体の水を冷蔵庫で冷やすと固体になりますか。液体のアルコールも固体になりますか。
(帰りの会に実験をセットして翌日結果を見る。)
課題8からは,寒剤[液体窒素]-196℃を使用し2時間連続で実験する。(液体窒素は,耳鼻科の校医又は,タウンページのガス屋さんに問い合わせると容器を借用でき購入できる。1リットルあたり500円程度。10リットルもあると十分楽しめます。)
課題8 液体のアルコールは,-196℃の液体窒素を使うと固体にできますか。棒風船の中の空気を冷やすと液体になりますか。ブタンの気体は,冷やすと液体になりますか。
(液体窒素で楽しみましょう。)
この単元終了後は、水について扱う別単元「水の循環」などとしました。
(「水蒸気」や「氷」は、水の三態であることが分かりにくいので、「水の気体」「水の固体」と表現するのが良い。)
課題1(燃焼) 試験管に砂糖を入れて加熱します。様子を観察しましょう。
試験管に小麦粉・パン粉・味の素を入れて加熱しましょう。
課題2(蒸発) 液体のアルコールで手のひらをぬらし手のひらをしめらせます。液体のアルコールを観察しましょう。 液体の水を机の上にこぼしました。液体の水は,明日どうなっていますか。
課題3(蒸発) 洗ったばかりのハンカチは,300gありました。一晩乾かしたハンカチの重さは300gですか。
(前日にハンカチを洗って重さを計っておく。一晩乾燥させておいたものを準備しておく。)
課題4 コップに5℃の水を入れて空気中におきました。コップのまわりは,どうなりますか。
どうしてコップのまわりについた水がついたのでしょうか。(簡単に問いかける。)
課題5 みんなで,「地上に降った雨はどうなるのか」考えていきましょう。
授業後記
課題1~6までだけでもよく分かる
ものの状態変化は,固体から始めることが子ども達には抵抗無く理解が進みます。また,水の気体もその他の物質が状態変化することから水の中の泡を水の気体であると考えることもできます。そのためには,2学期の「水のかさと力」の単元で,固体・液体・気体について学習することも大切です。また,気体は水中では泡になって見えることも学習内容としては重要です。
本格的な実験で理科好きに
4年生3学期の子ども達は,論理的な思考ができる子どもが多くなります。この前○○だったから□□だろう。考えることのできる授業を仕組むことが必要です。「ビーカーの水が100℃になりません。」「湯気のことを水蒸気だと思っていますがどうしたらいいですか。」「フラスコから出てくる見えないところが水の気体水蒸気だよ。見えない水蒸気を分かりやすく教えるにはどうしたらいいですか。」こうした相談をよく受けます。今回の指導計画で行うと,こうした問題はおこりません。昨年教えた子ども達が,今年の4年生に「4年生の理科はおもしろいよな。いろいろ実験するから。」と話しているところを見かけます。
子ども達は,結果のきちんと出る分かりやすい実験が大好きです。実験によって日常と違う世界に出会うことに目を輝かせます。実験で確かめたことをもとに日常を見てみると,「金属を液体にして加工すること。」「冷たいコップに水滴が付くこと。」「洗濯物が乾くこと。」いろいろな現象が見えてきます。生活と授業をつなぐ視点も大切にしていくべきだと思います。
報告 丸山 哲也(科教協委員長)
編集責任 長谷川静夫(科教協静岡)