科学教育研究協議会が編集する月刊誌
「理科教室」 2014年10月号 (日本標準刊、920円)
特集「火山に行こう」で書いたものの一部修正版です。
【この記事の目次】
(1) 日本の火山と災害
(2) 地球内部の構造とマグマの発生
(3) 火山の噴火と噴出物
(4) 火成岩の特徴と鉱物
(5) マグマの特徴と噴火のようす
(6) さまざまなマグマと火成岩ができる理由
別記事に「富士山の火山地形の見学」があります。
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火山や火成岩の分野を教えていて生徒からの声で気になることは、「岩石や鉱物名とその分類や火山の種類などを覚える内容でつまらない」と聞こえてくることです。また「岩石の名前を聞いても先生が答えてくれない」という声も。
岩石名はある範囲内のグループに1つの名称を付けているのであって、よく教科書に出てくる岩石でもその写真どおりのものは多くはなく、 それ以外の種類を含めて千差万別で、簡単にはその名称は分からないです。表面が変質したものも多いのです。 私は、先人の研究からこの地域にはこうした岩石があると調べた上で「そこで拾った岩石は、この特徴から○○岩らしい」と答えます。
自然科学の学習としては、名称や分類がメインになるのではなく、それも使って多様な自然(多様な岩石や火山)がどのように形成されたか(しくみ)も伝えたいと思っています。 この文は、それを目指してまとめてみましたが、内容的には一般的なものと言って良いものです。
(私の実際の授業では、以下の内容以外も含めて構成しているため、鉱物や火成岩などの一部は省略し、また授業順も異なっています)
(1)日本の火山と災害
日本の「活火山」(概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山)は110(火山噴火予知連絡会 2011年)です。 気象庁のHPの図「火山防災のために監視・観測体制の充実等が必要な火山」には47の活火山があります。
その図を見ると、危険な火山がある火山帯は日本全国の全てではないと思いがちです。 しかし、富士山の宝永噴火(1707年)では当時の江戸に数cmの火山灰が降り積もりました。 めったに起こらない大規模なことだったとは言え、同じことが起れば健康被害だけでなく、 コンピューターの誤作動を初め都市機能の異常、車や電車、飛行機が運行不能になるなど大きな被害が出ると予想されています。
また、北部鹿児島湾(その南端が桜島火山)の部分を姶良(あいら)カルデラと言い、2万9000年前の火砕噴火の跡です。 この噴火では、噴出物でシラス台地(最大150m、鹿児島県内で概ね数10mの厚さ)ができ、さらに、火山灰は遠く青森県津軽半島でも3mmの厚さで積もりました。
このような激しい火山活動が差し迫っている訳ではありません。 しかし、日本全体が地震危険地帯であるとともに、火山災害に関わる危険性のある、現在も続いている地殻変動地帯であることは意識しておきたいものです。
生徒は地球内部に流体(液体)の核があることを知っています。「マグマはこの流体の核の物質がドドドッと吹き出してきたものではありません」と言うと笑います。 「多くのマグマは地球の薄皮にあたる地殻の下あたりで生まれてプチッと出てきたものです」には意外だという顔をします。 「マグマの生まれる場所のマントルは固体なのに、どうしてマグマができるのでしょう?」と問いかけます。
マグマは岩石がとけたものですが、マグマが発生するマントル上部では、地球内部温度は岩石が融解する温度に達していません。 マントルが基本的に固体であることは、地震波のS波(横波)が伝わることでわかります。
右中図は、地球内部温度と岩石の融解温度の模式的グラフです。
グラフの縦軸は深さであるとともに、その深さの圧力を表します。 図から明らかなように、地球の浅いところでは岩石の融解温度が内部温度より高く、岩石がとける深さはありません。 しかし、この融解温度と内部温度が近い(深さ百数十km付近)ところで、例えば深部からの熱のわき上がりで温度が上がったり(図の横の矢印)、 あるいは圧力が下がったり(図の縦の矢印、岩石が上昇することも考えられる)、または両方ともに起こると、内部温度が融解温度を超えて岩石はとけ始めマグマになります。
また、最近の説では、内部の岩石に水が含まれていると融解温度が下がって(図中の点線になると)、岩石がとけるというものがあります。
(3)火山の噴火と噴出物
固体が液体になると多くは密度が小さくなるので、マグマも浮力がはたらき上昇します。 しかし、そのまま地上に噴き出す噴火となるわけではありません。 地殻に入り、マグマと周囲の岩石の密度が同じになると、マグマはそこで上昇を止めマグマだまりをつくります。 マグマだまりでは、温度の低下につれてマグマの一部が固体にもどり、マグマの残液の密度が低下すると再び上昇します。 マントルでできたマグマは上昇中に何か所かの深さでマグマだまりを作るようです。
地下数kmにできるマグマだまりでは、周囲からの圧力が低いためマグマに含まれる水や二酸化炭素などが気体になり膨張して、周囲の岩石を破り噴火が起こります。
[実験]サイダー(炭酸飲料)の吹きこぼれ
サイダーをよく振ってから栓を開けると、溶けていた二酸化炭素とともに噴きこぼれます。 マグマが地震などの震動をきっかけに噴火する例と対応しているとも言えるでしょう。
[実習]火山灰中の鉱物(結晶)の観察
火山灰を双眼実体顕微鏡で見ると鉱物がたいへんきれいに見えて、生徒は感激します(ルーペでも可能ですがあまり大きく見えません)。 手近で火山灰が手に入らないときは、ローム(市販の赤玉土、鹿沼土など)でも可能です。
蒸発皿等に資料をとり、指でこねながら水洗いを繰り返してにごりをよく流す必要があります。 また、水を捨てたその皿に少量の希塩酸(5~10%)を加え、ホットプレートなどの上で数分ゆっくり加熱した後に水洗いすると、鉱物表面の鉄分が取れてきれいになります。 水を捨てた鉱物入りの皿をホットプレートなどの上で乾かし、その後ろ紙などの上にまばらに撒いて観察をします。
ろ紙の下から磁石を動かしたとき、動く黒い鉱物があれば鉄鉱石です。
「火成岩中の鉱物を火山灰で観察(実習)」→ (クリックしてください)
(4)火成岩の特徴と鉱物
下表は主な火成岩の特徴と含まれる主な造岩鉱物の一覧表です。
表 火成岩の分類と鉱物
表を見ると、岩石の主成分が二酸化ケイ素(SiO2)であると分かります。地殻をつくる物質の重量比でほぼ半分を占めます。 有色鉱物(黒っぽいが緑や褐色に近い色にもなる結晶)は二酸化ケイ素が少なく鉄やマグネシウムのイオンが含まれています。 特にかんらん石は他の成分を含みません。無色鉱物(透明、半透明、または白色の結晶)は二酸化ケイ素が多く鉄やマグネシウムを含みません。
石英(結晶名が水晶)は二酸化ケイ素だけからできています。
石英以外の主な造岩鉱物は、液体に複数の成分を自由な割合で混ぜることができるのと同様で、複数の元素が自由な割合で存在できることから固溶体と言います。 例えばかんらん石では、結晶構造の中のある位置にFe2+とMg2+のどちらが入ってもよい構造をしています。 表中の斜長石もCa2+が多いものとNa+が多いものとの間で変化するという意味です。
(5)マグマの特徴と噴火のようす
下表は主なマグマの特徴と、噴火や火山の形の違いの概略を示します。火成岩の種類に対応した関係があります。
表 マグマの分類と火山地形
粘性が低い(SiO2が少ない)マグマは、火口に溶岩湖をつくったり、火口や割れ目から噴き出すさらさらとした溶岩流が特徴です(もちろん温度が低下する周辺部では動きが鈍ります)。 この溶岩流からは建物や構造物は逃げることができませんが、人は逃げることができるので人的被害は少ないです。
粘性が高い(SiO2が多い)マグマは、そのままの形でにゅうと火口から出てくることがあります。 北海道の昭和新山は噴き出したマグマがそのまま冷え始めて、山を形作っています。 このマグマが噴き出したときや溶岩が割れて、数百℃の火山ガスや火山灰、火山れきが一緒になって100km/時という速さで流れ下る現象が火砕流です。
長崎県の雲仙普賢岳では予想以上の規模になり、火山研究家や報道関係者、警備でいた消防団員と警察官も巻き込まれ、貴い犠牲が出たような非常に危険な現象です。
日本に多い成層火山の形は、溶岩が流れ出す時期と火山灰が多い時期が交互に起こった結果です。 また、マグマの種類も時により変化して、溶岩の性質も変わります。粘性の高いマグマが噴出する時期には、火砕流も起こります。 大規模な噴火の後に火口周辺が陥没するとカルデラ火山になります。
マグマが地表や地表近くで水に触れると水が爆発的に沸騰・膨張し、水蒸気爆発という危険な現象が起こります。 また、噴火の後に大雨があったり、噴火が山に積もっていた雪をとかすとき、火山灰や火山れきが水に混じって流れ下る火山泥流という現象もあります。 噴き出した二酸化炭素や硫化水素などのガスで人的被害が出ることもあります。
(6)さまざまなマグマと火成岩ができる理由
このしくみを「結晶分化作用」と言います。
鉱物の融解(凝固)温度が高い(高温で晶出する)順に並べると、有色鉱物では、かんらん石 → 輝石 → 角閃石 → 黒雲母、無色鉱物では、Caに富む斜長石 → Naに富む斜長石・カリ長石・石英です。 (4)の表と比べ、苦鉄質岩が高温でできると分かります。(5)の表と比べ、玄武岩質マグマが高温であることの関連が考えられます。
マントル上部(かんらん岩質の岩石)で、とけやすい成分がとけて(部分溶融で)玄武岩質マグマができます。 マグマだまりで温度が下がると、まずかんらん石や輝石、Caに富む斜長石が晶出し、マグマから分離してマグマだまりの底に沈みます(深成岩です)。 晶出した鉱物にはFe2+とMg2+やCa2+が多いため、マグマの残液にはそれらの成分が少なくなります。
やがて、マグマの残液成分の変化と温度がさらに下がることで角閃石も晶出するようになり、できる深成岩もマグマの残液の成分も変化します。 さらに、温度が下がることと、相対的にSiO2やNa+とK+が増えることで、黒雲母やNaに富む斜長石、カリ長石、石英が晶出するようになります。
しかし、結晶分化作用の最後にできる流紋岩質マグマはあまり多くなく、大陸地殻に多量に存在する花こう岩の量が説明できません。 このことから地殻の部分溶融で花こう岩質のマグマができると考えられるようになりました。 また、上昇する玄武岩質マグマが周囲の岩石をとかしこむことで、安山岩質マグマに変化することも起こっているようです。
このようなしくみで多様な火成岩や火山活動が起こっていると分かってきました。
「富士山の火山地形の見学」という記事があります。→ (クリックしてください)
文責:長谷川静夫(静岡・高校理科サークル) skrc@sf.tokai.or.jp