富士山の構造と歴史、火山地形の見学地の紹介
富士山周辺は観光地としてだけでなく、火山などの学習にも役立ちます。富士山だけでなく全国で、火山や溶岩地形、火山灰性の土壌が見られます。 そんな見学の参考になるようなことにも触れたいと思います。 尚、別に火山や火成岩の学習の基本「火山で何をどう学ぶか」という記事もあります。
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富士山と宝永噴火口(南麓、水ヶ塚公園)
(1)富士山の構造と歴史
富士山は成層火山ですが、現在の山体の形成には、4つの段階があったようです。
① 最も古いのは先小御岳(2004年 東京大学地震研究所のボーリング調査で判明)で、数十万年前に噴火をした安山岩の溶岩のようです。
② その後、10万年前までに噴火をしていたのが小御岳で、山梨県側富士スバルラインの終点近くの小御岳神社付近に溶岩が顔を出しています。
③ 10万年前以降に噴火を始めたのが古富士火山で、富士山の原形を形作りました。 大量の火山灰やスコリア(暗色で多孔質の岩塊)、溶岩を噴出する爆発的な噴火を繰り返したようです。 このときの溶岩は宝永山の頂上付近に顔を出している赤岩がそれです。火山泥流も頻発し、山体崩壊(岩屑なだれ)も起こっています。 また、関東ローム層(赤土)は富士山から飛んできた火山灰が主になってできました。
④ 1万1000年前からの噴火は玄武岩質の流動性が高い溶岩と火山灰を繰り返し噴出し、古い山体をほとんど覆ってしまいました。 ただ、新富士火山で火砕流や山体崩壊も起こっていました。 また、2,200年前以降は山頂火口からの噴火がなくなり山腹や山麓からの噴火になって、たくさんの側火山(1回の噴火による単成火山)ができました。
富士山と側火山(富士宮市)
富士山は東海道に面していたためさまざまな古文書の記録も残っています。 大きな噴火は2回あり、864年の貞観大噴火は山頂の北西斜面から大量の溶岩とスコリアを噴出して、 富士北麓にあったせの海という大きな湖を埋め、その残りが現在の精進湖と西湖です。 この溶岩流の上に森林が形成され青木ヶ原樹海と言われています。
また、1707年の宝永大噴火は山頂の南東側に噴火口ができ、大量のスコリアと火山灰を吹き上げ江戸にまで火山灰を降下させました。
富士山の記録では、約1,000年で10回以上の噴火があり、特に奈良・平安時代には約50年に1回の噴火をしていました。 ところが宝永大噴火の後は300年間噴火がありません。
(2)特徴的な火山地形の見学
① 溶岩地形
溶岩は新旧の火山地帯でよく見られます。 下の写真は新富士溶岩流です。鳴沢の「ジラゴンノ運動場」の横(山梨県鳴沢村の「道の駅なるさわ」の奥)で見られる高さ数mの崖で、 流れて来た玄武岩質の溶岩流が冷えたものです。
色は暗色で斑晶(岩石の中に見られる大きめの鉱物結晶でマグマだまりで冷却中に晶出を始めていたもの)が目立たない溶岩でした。 ただ、一般に溶岩の表面は風化(自然環境で変質)していて、見ただけでは溶岩の種類(岩石名)を決めるのが難しいものです。資料によると玄武岩に分類されます。 写真の溶岩の左下の空隙は赤茶色のテフラ(火山灰やれきが混じった堆積層)で、溶岩流の前に堆積したものです。
赤色は鉄の酸化物の色で大気に接して冷却し酸化が進んだことを示します。 また、溶岩の中の上下の部分は急冷のため、かなりの空隙や揮発成分が抜けた跡があります。
五竜の滝(静岡県裾野市)は黄瀬川の河原にあり、何回か流れた新富士溶岩流の十数mの崖が見られます。 富士山周辺の溶岩流は、例えば富士川の河原(静岡県富士宮市芝川)、山梨県の河口湖~本栖湖の湖岸や青木ヶ原樹海などでも見られます。
五竜の滝(裾野市)
景ヶ島屏風岩の柱状節理
五竜の滝の崖でも縦の割れ目が見られますが、同じ黄瀬川の景ヶ島屏風岩のもので、柱状節理と言います。 溶岩が冷えて収縮するときに割れてできたものです。たまにこの石材が料理店等の店先に飾ってあるのを見ます。 溶岩流がむき出しになっているところにはよく見られますが、観光地では玄武岩質溶岩に多く玄武洞(兵庫県)など、 安山岩質溶岩では東尋坊(福井県)などにあります。
陣馬の滝(富士宮市猪之頭)では、上3分の2の新富士溶岩流の上やすき間、下の古富士泥流(緻密で不透水層になっている)との間から水が流れ落ちています。
陣馬の滝(富士宮市)
下流には有名な白糸の滝(富士宮市上井出)もあります。
② 風化火山灰土壌
火山灰堆積物はそれ自体は肥沃ではないが、腐植(植物が分解・腐敗したもの)が混じると有機物に富む通気性、保水性、排水性に優れた土壌になります。 表面では有機物の多い黒土(黒ボク土)に、その下では有機物の少ない赤土(ローム)になります。 現世(完新世または沖積世と言う)の火山灰風化物が黒土、1万年前以前(更新世または洪積世と言う)のものが赤土となっています。
風化火山灰土壌は、肥料の散布など人間の手が入って良い農地になります。また、溶岩流や火砕流の地域も含め豊かな森林になっています。
(3)災害予測(ハザードマップ)
上図は富士山ハザードマップ検討委員会が2004年に作成した「富士山火山防災マップ」の2つの図です。(富士山火山防災協議会、内閣府ホームページより)
火山活動は近い時代に活動を繰り返しているとも限らず、また、過去と同様な活動をするとも言えず、予測が難しいところがあります。 したがって、最大限の災害予測からハザードマップを作ることになり、周辺に多い観光産業から批判が出て進まない面もあるようです。 しかし、大きな噴火の場合などは、地震と違い科学的な観測を続けていると、直前には予知が可能になることがあります。
2000年の有珠山の噴火では、人々の生活場所に近いところから噴火したにもかかわらず、事前の警報によって1万5000人が避難して一人の犠牲者も出しませんでした。 災害予測を持っているからこそ、人々の生活と安全が確保できると言えるでしょう。
(4)富士山に関する学習施設、団体
・なるさわ富士山博物館(山梨県鳴沢村、道の駅なるさわ隣接)入館無料、年中無休
・裾野市立富士山資料館(静岡県裾野市須山)入館料200円、月曜等休み
他に、富士山レーダードーム館(山梨県富士吉田市)、山梨県立富士ビジターセンター(山梨県富士河口湖町)、富士博物館(同)、富士市立博物館(静岡県富士市)、奇石博物館(静岡県富士宮市)など。
[参考図書・資料]
・「富士山の謎をさぐる」 日本大学文理学部地球システム科学教室編、築地書館(2006)
・「富士山大噴火が迫っている!」小山真人著、技術評論社(2009)
・「富士山の地学巡検」奇石博物館(2011)
科学教育研究協議会の編集する月刊誌
「理科教室」 2014年10月号 (日本標準刊、920円)
特集「火山に行こう」「火山で何がどう学べるか-富士山も例として-」
という題で6ページを書きました。 前半は、火山活動と火成岩についての紹介で、科教協のメールマガジン内では「火山についての教科書のようで、とても短くわかりやすくまとめられています。 図表や写真が多く、‥‥初学者にもわかりやすく書かれています。」と、評価してもらえました。
以上は、「静岡理科の会」で報告した「富士山を例にして、火山の見学へ」の内容です。
文責:長谷川静夫(科教協静岡) skrc@sf.tokai.or.jp
「富士山の火山地形の見学」は、増補版を2020年に掲載しました。 → (クリックしてください)