1 はじめに
中学校では新学習指導要領が来年度から本格実施されようとしているなか、中学校で30年ぶりに「放射線」が復活した。
2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故により、大量の放射性物質が放出された。それまで、原子力発電によって得られた電力に疑問をもつこともなく消費してきた国民は、原子力発電と放射線について、否応なく向き合うこととなった。
私は勤務する中学校で放射線測定器を備品購入してきた。いつきてもおかしくないといわれる東海地震の震源域に浜岡原子力発電所がある。私の生活する町から浜岡原子力発電所までの距離は40kmほどである。東海地震がこれまで想定していたものよりも大きな規模で発生することが考えられており、原子力災害に対して、防災と教育の両面から対応していく必要に迫られている。
そこで、私が担当する3年生1学級で、2分野での「生物の生長と増え方」と1分野での「科学技術と人間」を連携させて、エネルギ-のありかたと放射線について扱う教育実践を試みた。このレポートは、前半となる「放射線」を扱った内容であり、後半となる「原子力発電(仮題)」は、3学期の「科学技術と人間」の単元で扱う予定である。
2 生徒に伝えたい内容
授業を始める前に生徒に伝えたい内容について以下の事柄を挙げてみた。
・放射線測定器を使用してこの環境に自然放射線があることを実感させる。
・ウラン235は核分裂しやすいが、普通は勝手に核分裂しない。
ウラン235の原子核は中性子を吸収すると不安定になる。
・自然放射線があることを理解させる。
・放射線もれと、放射能もれのちがいがわかる。
・放射線の種類と性質がわかる。
・そこに、放射線がどれだけあるかを知り、正しく放射線を怖がることができる。
・内部被爆と外部被爆のちがいがわかる。
・放射線はどうして、出るのかがわかる。
・放射性物質は、どうして有害なのかがわかる。
・放射線利用の例を知ることができる。
※学習指導要領内容「放射線の性質と利用にも触れること」
3 指導計画
学習内容 (指導時数)
【生物の成長と殖え方】 合計 19時間
〇 生物のからだのつくりとからだの成長 (5時間)
・オオカナダモとヒトの細胞の顕微鏡観察 ・細胞のつくり
・夕マネギの根の細胞分裂の顕微鏡観察 ・からだが成長することについて
・定期学力調査答え合わせ
○ 生物のふえかた(6時間)
・植物の生殖 ・花粉管の顕微鏡観察
・動物の生殖 ・望まない妊娠について(自主教材)
・ヒトの妊娠と出産(自主教材) ・定期学力調査答え合わせ
〇 遺伝の規則性と遺伝子(8時間)
・形質と遺伝・減数分裂 ・有性生殖と無性生殖
・遺伝の規則性 ・メンデルの行った実験
・優性の法則・分離の法則 ・遺伝子の本体と遺伝子の変化
・章末問題
【科学技術と人間】 合計 12時間
○ 科学技術と人間の生活(9時間)+(選択分3時間)
・電気エネルギーをつくる方法(火力・水力・原子力)
・エネルギー資源の問題点 = 燃料の有限性と環境への影響
・原子力の利用による環境への影響 ・放射線
・放射線の利用と人体 ・再生可能エネルギー
○ 科学技術とわたしたちのくらし(選択1分野)
・材料の進歩 ・情報技術
・環境を守る技術 ・まとめと章末問題
○ 自然の災害と恩恵(選択2分野)(3時間)
・自然はどんな災害をもたらすか ・自然はどんな恩恵をもたらしているか
・自然との共生に心がけて生きよう
4 授業内容(放射線)
1時間目 ― 遺伝子の本体と遺伝子の変化がわかる (次にイオンの学習が入る、教科書の順)
2時間目 ― 原子の構造がわかる
3時間目 ― 放射線発見の歴史がわかる
1895X線発見(レントゲン)、1896放射線発見(ベクレル)、1898ラジウム、後ポロニウム発見(キュリー)
4時間目 ― 放射線はどうしてできるのかがわかる
・核分裂を起こす物質 ― ウランには、質量数(編集者注:原子核の陽子と中性子=核子の数で、質量が近いので数が質量を表す)が235(全体の0.7%で核分裂を起こす)と、238(全体の99.3%で核分裂をしにくい)があり、核燃料ではウラン235を3~5%に濃縮する。
・核分裂の連鎖反応 ― 中性子が衝突したウラン235の核分裂で、別の原子核ができる。そのとき原子核の合計質量は約0.1%減り、1gのウランから水を数十トン沸騰させるエネルギーが生じる。分裂をしてできた原子核は放射能を持っている。
5時間目 ― 放射線の種類と性質がわかる(放射線はなぜ、DNAを破壊してしまうのか)
・放射線の種類 ― アルファ線(ヘリウムの原子核、紙1枚で止まる)、ベータ線(核子の変化で生じる電子、厚さ数mmのアルミ板で止まる)、ガンマ線(電磁波、厚さ10cmの鉛板で止まる)。
・放射線の性質 ― 目に見えない、物体の透過力が強い、原子をイオン化する能力が高い(物質を壊す、電荷をもつα線・β線は体内の水、タンパク質、DNAなどを壊す)。
・DNAの壊れ方(切断) ・単位(グレイ、シーベルト、ベクレル)
・内部被曝 ― 呼吸や飲食で取り込んだ放射性物質がβ線を放出し、被爆する。
6時間目 ― 質問に答えて
以上は、上久保廣信さん(浜松市立中学校)が、昨年の「静岡県教育研究のつどい」理科教育分科会で報告したレポートを、「科教協静岡ニュース」に掲載するために編集し直したものです。「つどい」で、上久保さんから中学生の反応は、「見えないから怖い」「なくならないから怖い」というものだったので、そこに応える実践を積み重ねたいという発言がありました。(科教協静岡:長谷川)