2010年8月18日、浜松科学館の実験室をお借りして、化学の実験を中心とした内容で開かれました。 緊急の事情で来られなくなった講師に代わり、科教協愛知支部の事務局長でもある岡田晴彦さん(名古屋市立北高校)に、たくさんの実験道具を抱えて来ていただきました。 講師の岡田さんは、愛知の「モルの会」や全国的な研究会である「アルケミストの会」でも活躍されています。
また、同じく愛知支部の園原誠さん(岡崎市立豊富小学校)にも、重たい荷物を引っぱって応援に駆けつけていただきました。 みっちりとした5時間の充実した研修会になりました。
準備や連絡は、杉山直樹さん(浜松理科の会)に全てやっていただきました。 特に、浜松駅横の科学館の実験室が、無料で借りられたことには驚きました。 実験室は、基本的な実験器具も充実していて、また、実験机などかなり使い込まれている様子で、それにも感心しました。
【この記事の内容】
(1) 高校化学の授業の進め方
(2) 高校化学での演示実験の工夫
(3) 演示実験をする際に注意すること
(4) 水谷式分子模型
(5) 音と光のテスター
(6) テルミット反応
(7) 還元剤としてのビタミンC
(8) 金属のイオン化傾向
(9) 水素よりイオン化傾向が小さい金属を溶かす
(10) 進化するアルコール鉄砲
(11) 簡単に気体を捕集する電気分解装置
(1) 高校化学の授業の進め方(岡田さんの資料と発言からのまとめで、文責は事務局です)
① 授業をプリントですすめる。
生徒が板書をノートに写す速度が非常に遅いこと。プリントの空欄を埋めるならば時間がかからないため。また、演示実験をしても生徒の記憶に残らないこと。 プリントに演示実験の内容を書き、結果も記録させ、その解説をすれば、たとえ生徒が忘れていても、プリントの該当する箇所を示してやると思い出すため。
板書をていねいに写すが、頭がはたらいていないので、質問などを多くして,少しでも頭をはたらかす時間を確保する。
② 演示実験をできるだけ多く取り入れる。
ほとんどの生徒にとって、教科書やプリントの内容だけで化学を真に理解することは困難。 実験や実物の観察を通して化学が理解できれば、その知識や思考力は本物だと思う。
その際、器具・薬品はできるだけ身近なものを使用したい。 化学現象は教科書に載っていることだけでなく、身近で起こっていることのほとんどは化学現象であることも知らせたい。
③ 生徒実験を可能な限り実施する。
「実際に自分でやってみて本当にそうだったと確認できた」というような内容のことを書く生徒が少なからずいる。 生徒実験をするものも、授業の中で演示実験でも見せている。
(2) 高校化学での演示実験の工夫
① 教室へ持っていくものは洗濯物入れがよい。(ホームセンターで売っている)
② 全員の生徒から見えやすくする。
1.箱の上で実験する。 2.試験管を黒板に磁石で取り付ける。(写真参照) 3.できれば太い試験管を使用する。
③ できれば身近な器具や薬品を使用する。(ビーカーや三角フラスコの代わりにワンカップ等の容器(蓋付き)、塩酸の代わりにサンポール等)
④ 100Vテスター、メロディーテスターを活用。
⑤ チャック付きビニール袋(冷凍保存パック)は、金属箔を溶かす実験で使える。(写真参照)
⑥ 燃料電池。
(3) 演示実験をする際に注意すること
1.授業の主題にあっている。 2.あまり時間がかからない。 3.複雑のものは避ける。(単純な内容がよい) 4.派手なものは避ける。(派手なものは生徒がどんどんやって欲しいとエスカレートしやすいので、時々だけ)
以下で紹介された実験の内のいくつかを紹介します。
(4) 水谷式分子模型(安城学園高校 水谷健次郎氏考案)
生徒が化学現象を原子・分子で考えられるようにすることが第一でないかと考え、分子模型を使っているとのこと。 水谷式分子模型は、大型ではめ込み式なので、化学反応式にそって変化を全体にはっきり見せられ、有効。
発泡スチロール球の直径3.5cmを水素原子に、直径6cmを炭素や窒素・酸素等にする(球の種類が少ないのでこの程度で)。 ポリエチレン管(PEカン 内径3mm 外径5mm)の5cm分を継ぎ手にして、例えば炭素では正四面体型になるように4本埋め込み、ホットボンドで補強する。 結合手用には、赤ちゃん用綿棒がよい。継ぎ手も結合手もしなるので、2重結合なども示しやすい。
(5) 音と光のテスター
例えば金属の電気伝導性等を、音と光で確認するのに使用。 電子メロディーの外部コードに発光ダイオードとダイオード保護用抵抗を並列に接続、それらに電池3Vとテスター端子を直列に接続したもの。
(6) テルミット反応(酸化鉄(Ⅲ)をアルミニウム粉末で還元)
酸化鉄(Ⅲ)(ベンガラ)8gとアルミニウム粉末3gをよく混ぜ、マグネシウムリボンに点火して粉に着火すると、激しい反応が起こる。 教室で実施するときの注意事項は、①ベンガラとアルミ粉は、前日か当日朝にデシケーターに入れて乾燥させておくと良い、 ②ベンガラとアルミ粉はビンに入れて持っていく、③ベニヤ板(ひも付き)を敷く、④500mLビーカーに水を入れ、中の底にろ紙等を敷いておく、
⑤三脚と三角架を使う、⑥ろ紙を水で濡らし、ベンガラとアルミニウム粉末を入れる。
(7) 還元剤としてのビタミンC
ビタミンCは、食品の酸化防止剤(還元剤)として、いろいろな食品に使われていて、身近な還元剤の例として有効。
「かむかむレモン」(ビタミンCを多く含むチューイングキャンデー)を口の中でしばらく咬んで、そこへヨード系うがい液を口に入れ、またすぐそのうがい液をコップに出す。 すると、うがい液の褐色が即座に透明になっている。「レモンあめ」では、ヨード系うがい液にあめを入れてかき混ぜると、ゆっくり反応して透明になる。
(8) 金属のイオン化傾向
0.1mol/L程度の金属イオンの水溶液に、イオン化傾向が大きい金属線を入れると、まもなく水溶液の金属が、金属線に析出してくる。 しばらく放置すると、イオン樹が簡単に見られる。そのためには、太い試験管が有効。
硫酸銅(Ⅱ)水溶液に、紙やすりでみがいた針金(鉄線)を入れると、針金に銅が析出する。 最初は黒っぽいが太くなると銅の色になる。時間が経つと、液の銅(Ⅱ)イオンの青い色が薄くなり、鉄(Ⅱ)イオンの薄い緑色に近付く(写真内左側)。 また、硝酸銀水溶液に銅線を入れると、銅線も徐々に黒くなり、太くなると銀色になり、きれいな銀樹ができる。
液は徐々に銅(Ⅱ)イオンの青い色になってくる(写真内右側)。
(9) 水素よりイオン化傾向が小さい金属を溶かす
金属箔を使う実験が見やすく、また、有毒ガスが発生するので、チャック付きビニール袋でするのが良い。 袋に銀箔を入れ、硝酸を袋にピペットでいれてチャックを閉じ観察。また、金箔は、まず硝酸をいれ反応しないことを確かめた後、塩酸を追加する(王水にする)と溶けることが、良くわかる。
チャック付きビニール袋を使う金属箔の溶解は、四ケ浦弘氏(金沢高校)のアイデア。 金属箔の購入は「かなざわカタニ」(ホームページ、Tel.076-263-6111) で、銀箔は20枚で1,800円、金箔は10枚で2,000円前後(送料も必要)。
(10) 進化するアルコール鉄砲
圧電素子での放電を利用しアルコールを爆発させる実験は、昔から行われてきた。 それが進化した。この工夫は、児島高徳氏(刈谷工業高校)のアイデア。
アルミ缶(コーヒー缶に紙の筒を差し込めば音が大きくなる)を筒とし、霧吹きでアルコールをアルミ管内に満たし、 紙コップを逆さにして蓋として(紙の筒を使うときは紙コップを筒の中に差し込み)、缶の底近くに空けた穴から、チャッカマンで点火して爆発させ、紙コップを飛ばす。
(11) 簡単に気体を捕集する電気分解装置(園原誠さんの紹介)
電極にはまち針を使用、捕集容器は携帯用しょうゆ入れを利用する。 1つの容器に2つの電極(まち針)を使えば、気体が混合して捕集され(上の写真)、2つの容器を使えば気体は別々に捕集される。 捕集することも、気体の確認も容易で、有効な実験である。
文責:長谷川静夫(科教協静岡)