2023年3月26日(日)静岡県藤枝市立大洲中学校を会場に、SCIENTIA第5回特別企画「ふじえだ理科まつり」を開催しました。
参加者は1日を通して44名(うち、オンライン参加者2名)で、県外からの参加者や、教員をめざす大学生などもみられました。SCIENTIAの活動の中でも過去最高の参加人数です!皆様のご協力のおかげでたいへん盛況な会となりました。
1実践紹介のようす
(1) 子どもがワクワクする本物を体験できる野外観察
鈴木さんは、小学校第6学年「土地のつくりと変化」の単元で、1年を通して実践されたことを紹介してくださいました。
・本物の地層を観察
「島田市野外活動センター(島田市身成)」と「横臥褶曲断層(島田市神尾)」の二ヶ所で、実際に地層を観察する授業を実践されたようです(横臥摺曲は大井川の対岸から観察)。本物の地層を前にすると、児童たちはただ見るだけではなく、「先生!これ触ってもいい?」と聞いたり、実際に触ってみたりして、興味津々で観察に取り組むことができたそうです。また、本物を見たことで空間的な大きさや時間的な長さを感じることもできたようです。
→ 詳しい実践の紹介は、次のページに掲載
・土砂の堆積実験
一般的には、メスシリンダーを使つて行う土砂の堆積実験を、傘袋(傘を入れるポリ袋)でダイナミックに行う方法を教えてもらいました。傘袋は音の振動の確認用に教材化されており、教材カタログで購入できるとのことです。その中でも、一番厚手のポリ袋が今回の実験には適しているようです。れき・砂・泥の順に堆積するようすや、堆積物の粒の大きさのちがいが実感できる実験でした。
(2) 評価指標を用いた「主体的に学習に取り組む態度」の評価
神谷さんは、岩手大学の久坂先生と平澤先生達が研究をしている、「主体的に学習に取り組む態度の評価方法」とその実践例について紹介してくださいました。
評価を行うときの問題点は、「評価するときの指標がないと評価がしにくいこと」、「評価者の主観によるため、評価者が変わると結果が分かれてしまうこと」などが挙げられます。岩手大学では評価の要となる信頼性と妥当性を統計的に調べ、理科の授業における“粘り強さの評価”と“自己調整力の評価”の指標を精選しました。
神谷さんはその指標を基に評価規準と評価基準を作成し、光の性質の単元で実践されたようです。評価指標を用いることのメリットは「学級差や地域差がでないこと」、「一貫性のある評価ができるので生徒にも根拠をもった評価基準を示すことができること」などが挙げられます。デメリットとしては「自校の生徒の実態にあったものの作成になると難しさを感じること」「指標をつくった人の主観に左右されるため、他の先生がこの指標をつかって評価するとき、評価が難しくなること」などが挙げられました。
(3) ミジンコ 授業活用の魅力
丸杉さんは、ミジンコの魅力・ミジンコの授業活用の魅力について紹介してくださいました。
・「動物の分類【中1】」に関して
同じ「ミジンコ」という名がつけられていても、実際は「科」や「綱」が異なることをわかりやすく教えてくださいました。種の異なるミジンコの違いを、他の生物と比較して考えると、「イタチとアライグマ」、「哺乳類と爬虫類」程の違いがあるというお話は、参加者も大きな驚きを感じました。
・「生命を維持するはたらき【中2】」に関して
顕微鏡を使うことで、ミジンコの目(感覚器官)や心臓(循環器官)、消化管(消化器官)などをはっきりと観察することができました。小さな生物であっても私たち人間と共通点があることを実感できるため、生物の共通性へと目を向ける有効な教材となりそうです。
・「生物の成長と生殖【中3】」に関して
ミジンコは基本的に雌による単為生殖(無性生殖)で殖えますが、乾燥や温度変化などの環境の悪化により、雄を産んで有性生殖を行い、乾燥などに耐えられる卵(耐久卵)を産卵することを紹介していただきました。無性生殖・有性生殖のどちらでも殖えるミジンコに、子どもは興味・関心を掻き立てられることでしょう。
→ 詳しい実践の紹介は、次のページに掲載
(4) 豊かな「観」を育む理科の授業づくり
栃山さんの中学校理科第一分野におけるテーマが「水」です。生徒に巨視的な「液体」のイメージや、微視的な「粒子」の概念を理解させることを目的としているようです。そのため、中学校3年間を通して系統性を意識して授業を行っているそうです。今回はその中から、中学校3年生「酸・アルカリとイオン」の単元における授業開発・実践の報告をしていただきました。
・系統性を意識した科学概念の育成
中学校3年生で本授業を行うため、中学校1・2年生の時において粒子や原子、その電気的な性質について授業で取り扱い、下地づくりを行った様子を紹介してくださいました。
・適切な教材の採択
水の電気分解を行う際、電解質として水溶液が中性を示す硫酸ナトリウムを用いる方法を皆で体験してみました。その際、BTB溶液を用い、分解による液性の変化のようすが視覚的にわかるようにしました。陰極では塩基性を示す青色に、陽極では酸性を示す黄色にきれいに変色しました。
・寒天(とろみ材)を用いた粒子概念の可視化
硫酸ナトリウムを用いた水の電気分解において、水溶液に寒天(とろみ材)を用いて固めることにより、変色部分の混合を防ぎ、かつ視覚的にとらえやすくなるようです。
2実験講座のようす
高橋(筆者)は、「クリスタル岩塩を使ったいろいろな実験」をテーマに岩塩を授業で活用するためのいろいろな方法を紹介しました。
・食塩のシュリーレン現象
岩塩を糸で結び、水の入ったビーカーに浸します。すると岩塩から“もや”のようなものが出て、溶ける様子(シュリーレン現象)が観察できます。その際、背景に白黒の縦じま模様をおくと、シュリーレン現象が観察しやすいです。
・質量保存
岩塩は見た目にも質量をイメージしやすいです。水100gに岩塩10gが溶けきるという事実はインパクトも大きいです(実際には20℃の水100gに岩塩は35.8gまで溶ける)。岩塩は目に見えなくなりますが、水溶液の質量は110gとなるため、液体中に岩塩が存在していることがわかります。
・へき開
へき開とは、結晶や岩石の割れ方がある特定方向へ割れやすいという性質のことです。岩塩にクギをあてて、金づちでたたくと、真っ平なへき開面があらわれます。
・アポガドロ数の算出
へき開実験で作った立方体(直方体)の岩塩を使ってアボガドロ数を算出しました。
・食塩の液化
細かく砕いた岩塩を耐熱試験管に入れ、トーチバーナーで加熱します。しばらくすると食塩が液体になるようすを観察しました。
・液体食塩の電気伝導性
導通試験器を接続し、液体食塩の電気伝導性を確かめました。固体の食塩には電気は通りませんが、液体の食塩には電気が通ります。
3講演のようす
静岡大学の郡司賀透氏は、「これからの授業実践と教育研究のあり方-現場と大学の連携-」をテーマにお話をしてくださいました。
大学は現場との共同研究を望んでいること、教育について現場を交えた自由闊達な議論を期待していることなど、大学と現場の教員との連携の可能性について言及されました。よりよい教育という同じ志をもつ大学と現場にとって、教育研究とその社会還元は職業的責務であるという、視点をいただきました。
これは「科教協ニュース」№760と761に掲載された、理科サークル「SCIENTIA」の行事の紹介(一部省略)です。
執筆:高橋政宏(理科サークル「SCIENTIA」)m-takahashi★ra3.so-net.ne.jp(★を@に変えてください)