小学校では単元に「メダカのたんじょう」があります。毎年、教材として買ったり知人からもらったり、仕入れが割と大変です。今年は子どもたちが家庭からメダカを持ってきてくれたため、教材として使用しました。安定した教材の確保のため、生き残ったメダカたちを繁殖させ、来年度以降も使おうと生体の育成を始めました(学校で管理するメダカがよく死んでしまい、世話の技術を身につけようという思いもありました)。結果楽しくなってしまい、すっかりメダカを飼う人になってしまいました。
現在飼育しているのはメダカ数種類が50匹ほど。ヒメタニシ、ミナミヌマエビも元気に繁殖しています。メダカの餌のため別水槽でミジンコ、ゾウリムシも飼い始めました。どれもが稲作初期の時代から日本の水田で生きつづけてきた生き物たちです。日本の四季に適応し、暑い夏、寒い冬をタフに耐え抜く魅力を持っています。
サークル例会ではそんなメダカの餌にするための微生物を紹介、観察しました。
その1 ミジンコの飼育と観察
ミジンコといえど、ケンミジンコ、オオミジンコ、タマミジンコと色々種類があります。身近な田んぼの水をすくってきても混じっていると思いますが、純粋にミジンコを一種だけを選別するのは至難の業です。確実なのは通販で仕入れることです。私はメダカの餌に一番適した「タマミジンコ」をAmazonで購入しました。ミジンコの餌が同封で届きますが量が少ないため、餌を追加していきます。私が使う餌は整腸剤のアサヒ食品「エビオス錠」。ビール酵母を乾燥し固めたものです。酵母そのものか、酵母を食べる菌や細菌をミジンコが補食しているようです。ミジンコは単為生殖で交尾せずに卵を産んで増えることができるため、適当に水槽に入れておけば増えます。爆殖、なんて呼ばれるくらい増えます。そして突然大量死します。原因は様々あるようですが、多くのミジンコブリーダー(?)がこの大増殖と大全滅を経験するようです。なので増殖に成功したら、一部を2つめの水槽に移し、そこで安定して増やしたら、全滅した水槽をリセットしてまた繋ぐというサイクルをつくると安定するようです。
観察の際は、肉眼でも見えるため子どもたちもテンションが上がります。スポイトで吸い取り、スライドガラスに落として、ろ紙で水分を吸って動きを奪います。炭酸水を加えると動かなくなるという話も聞いたことがあります。大きいため、4倍の対物レンズで充分観察できます。むしろ、大きすぎて対物レンズで押し潰してしまう危険の方が大きいです。例会で紹介したように、顕微鏡をICTでスクリーンに映すことができれば、目や、心臓、消化管など生きるための仕組みがあることが共有できて面白いと思います。(図1)
その2 ゾウリムシの飼育と観察
稲に住み着く枯草菌が大好物のゾウリムシ。これもまた田んぼとゆかりの深い生物です(田んぼじゃ無いところでもいくらでもいますが)。メダカの稚魚の餌に最適なので導入しました。やはり単離が難しいのでアマゾンで購入。餌もミジンコと同じ「エビオス錠」が使えます。キリンの「生茶」を薄めて使うこともできます。「生茶」を餌にするというより、「生茶」の成分で増えた細菌類を餌にするという意味合いが強いようです。ゾウリムシはミジンコよりさらに粗悪に飼育しても勝手に増えます。2Lのペットボトルに「生茶」と水とゾウリムシを詰め込んで、若干空気が入るように空間をあけて、キャップを緩めて置いておくだけです。密閉してしまうと窒息してしまうので緩めて置くのがコツです。安定して増やしたい場合は一日一度よく振って、空気と水を混ぜてあげましょう。増えたり減ったりを繰り返し、細胞分裂でしぶとく生きつづけます。見やすいようにツルンっとしたペットボトル(コーラなどのボトル)のほうがオススメかもしれません。
観察は中等教育以降でよく扱われるのでおなじみだと思います。小さくて動きが速いので、追いかけたり動きを薬剤で止める一手間が必要です。小学校ではその一手間が面倒なので敬遠しがちです。
生体の育て方などはYouTubeで専門の方がたくさん動画をあげているので、そちらのほうが参考になると思います(私も参考にしています)。新たな生きものと出会う度、育ててみようと決める度、新たな発見があります。特に日本の固有種を飼うと、日本に見事に順応しているため、野外で育てようと、少しくらい世話をサボろうと、きちんと生き、命を繋ぎます。その在りようがとても素晴らしいです。見ているだけでも楽しく、元気に泳ぐメダカや、メダカのおこぼれをツマツマつまむヌマエビ、のんびりコケを掃除するタニシがかわいく見えてきます。ただの教材研究のつもりが、ずいぶん好きになってしまいました。皆さんや子どもたちに分けられるくらいになるといいなと思うこの頃です。
(執筆:SCIENTIA 丸杉)
ミジンコの授業活用の魅力
「動物の分類 (中1)」に関して
丸杉さんから、同じ「ミジンコ」 という名がつけられていても、実際は「科」や「綱」が異なることをわかりやすく教えてくださいました。種の異なるミジンコの違いを、他の生物と比較して考えると、「イタチとアライグマ」、「哺乳類と爬虫類」程の違いがあるというお話は、参加者も大きな驚きを感じていました。
「生命を維持するはたらき (中2) 」に関して
顕微鏡を使うことで、目(感覚器官)や心臓(循環器官)、消化管(消化器官)などをはっきりと観察することができました。小さな生物であっても私たち人間と共通点があることを実感できるため、生物の共通性へと目を向ける有効な教材となりそうです。
「生物の成長と生殖 (中3)」に関して
ミジンコは基本的に単為生殖(無性生殖)で殖えますが、乾燥や温度変化などの環境の悪化により、雄を産んで有性生殖を行い、乾燥などに耐えられる卵(耐久卵)を産卵することを紹介していただきました。 無性生殖・有性生殖どちらでも殖えるミジンコに、子どもは興味・関心を掻き立てられることでしょう。
この他、「食べものを通した生物どうしの関わり (小6)」や、「メダカのたんじょう (小5)」などでも活用できること、ミジンコの飼育方法などについても紹介していただきました。
参加者からは、3週間というミジンコのライフサイクルに着目し、「生命の連続性 (中3)」の学習において継続して観察するおもしろさがあるのではないか、という意見が寄せられました。また、「動物の分類 (中1)」に関して、小学生でも十分に理解できる内容であり、詳しく説明をしてあげることも良いのではないかという意見も上がりました。
丸杉さんのミジンコ愛あふれる教材紹介となりました。 (執筆:SCIENTIA 青木)
この記事の問い合わせ先:高橋政宏(理科サークル「SCIENTIA」)
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