いま、双子の兄弟がいたとします。兄が高速のロケットに乗って、遠くの星に出かけ、そこで方向転換して再び地球に戻りてきます。 一方、弟の方は、ずっと地球にいます。相対性理論では、「運動している時計は遅れる」ということだから、兄の時間の進みは弟に比べて遅いはずです。 だから何年か後に二人が出会ったときには、弟の方が年をとっていることになります。
たとえば、兄の乗ったロケットの速度が光速の0.8倍として、その星までの距離を4光年(光速ですすんで4年かかる距離のこと)とします。 地球の時計で計ると、兄が星に到達するまでの時間は4÷0.8=5年ですから、帰還するまでには往復10年の年月が流れることになります。 だからその間、 弟は10歳年をとります。一方、ロケットの時計の進む速さは、相対性理論の時間の関係式から
(1-0.82)1/2=(0.36)1/2=0.6ですから、地球の時計の0.6倍です。 だから兄は帰還までの間に10×0.6=6年しか年をとりません。 すなわち双子の兄弟は別れるときは同年だったのに、再会時には弟が4年よけいに年をとっていることになるのです。 信じられませんが、実際にこうなるのです。
ところが、この話がパラドックスであると言われるのは、兄の立場から考えると、弟と地球と全宇宙が、反対方向に光速の0、8倍の速さで飛んでいき、再び引き返してくるように見えるという点にあります。 その見方では、時計が遅れるのは、兄の方ではなく弟の方だ、ということになり、兄の方が4年よけいに年をとる、つまり、先と逆の結論になるではないかというのです。
相対論は相対的だから、どちらの立場も同じではないかというのです。 結果は同じ一つになるはずが、観測する立場を変えるだけで結果が異なってしまうから、パラドックスだといわれるのです。
結論からいうと、兄の立場からの考えが間違っています。兄と弟とは完全に対称的な立場にいるのではないということです。 問題は、兄が目的の星でロケットの方向転換をするところにあります。方向転換をするためには、ロケットを噴射してブレーキをかけて減速し、そして再び地球の方に向けて加速しなければなりません。
減速も加速の一種ですから、ロケットの方向転換の時には加速度運動をしています。するとこのときに、ロケットに力が作用します。 ところが兄が方向転換している時、弟には兄が受けるのと同様の力の作用はありません。 よって、二人の立場は対称的ではありません。やはり弟と全宇宙が静止していて、兄はそれに対して運動していると考えることでいいのです。
ロケットに乗った兄からみるときの同時刻の線は左のグラフのようになります。 兄が星に到着した瞬間Bの、地球上での同時刻はB1です。星までの距離が4光年、ロケットの速さが光速の0.8倍ならば、B1は1.8年後です。 なぜなら、兄が星に到着するまでの時間ABは、5×0.6=3年です。
兄からみて、地球にいる弟の時計もやはり遅れているので(この時はどちらの立場も同等)、AB1は3×0.6=1.8年になります。
ところが、兄が帰還中の同時刻の線は、地球帰還が10年後なので、図の右下がりの線です。 したがって、兄が帰還の途についた瞬間の、地球における同時刻はB2です。 B2は10-1.8=8.2年後です。つまり、兄が星Bのところで、反転する時間の間に、地球の時計はB1からB2まで急速に進むのです。
だから、B1B2の時間、すなわちこの例では、8.2-1.8=6.4年間だけ弟はよけいに時間の経過を経験することになります。 兄からみると実際に、このように弟の時計がすすむのです。不思議です。
これは、B点で兄のロケットが方向転換のために、極めて大きな力を受けて極めて大きな加速度運動をしている間に、 兄の時間はほとんど進まず遅れているのに、弟の方は一気に6.4年間ほど時間が進むという、奇妙な現象になります。 これは「一般相対性理論(重力の理論)」によって説明されます。
兄の時間が遅れるというのは、兄の身体を構成する分子の運動や細胞の動き、血液の流れ、心臓の鼓動、胃や腸の動き、身体の成長などロケット内でのすべての活動が地上に比べてゆっくりとすすむということになります。
日常の世界では、光速の0.8倍(=3×108×0.8=2.4×108m/s)という超スピ-ドの運動はほとんど見かけませんから、 ここで紹介したことはまず起こりませんが、「もし条件があればそうなりますよ」という話です。 もし、地球から200万光年のところにあるアンドロメダ星雲に、光速の99.99999999%の速さでロケットが進むと、
200万年×0.000014=28年でロケットがアンドロメダ星雲に到達するわけです。
この記事は、退職されている長坂輝夫さんが高校に勤務のとき、授業で「ぶつり通信」として生徒に配布したものです。 以前「静岡・高校理科サークル通信」に掲載され、今回「科教協静岡ニュース」№67に転載しました。