炭酸水中に干しブドウを入れると、干しブドウは沈みます。しばらくすると、干しブドウの表面に 二酸化炭素の気泡が付着し始め、一定量の気泡が付着すると干しブドウは浮き始めます。水面まで 浮かんだ干しブドウは、気泡を空気中に放出し、再び沈み始めます(右図)。生徒は不思議がり、興味を示します。
この不思議な運動から、「浮力」を見いだし、運動を力で表現する授業を実践しました。
授業の実際
現象を観察する子どもたちの疑問をもとに、右表のような学習課題を設定しました。 すると、子どもたちからは、右表のような3つの説が出てきました。
その後、子どもたちは3つの説を検証していきます。 以下はある生徒の記録です。
まず、「質量」が浮力に関係しているかを調べていました。 同じ体積で質量の異なる物体(浮力測定用体)を用いて、教科書に掲載されている浮力を測定する実験を試していました。 結果から、質量は浮力に関係がないことを見いだしています。
次に、「表面積」が浮力に関係しているのかを調べました。 質量が同じで表面積の異なる物体(浮力測定用体)を用いて実験をしていました。 はじめは表面積が浮力に関係があると結論づけましたが、仲間から「表面積の変化に伴って体積も変わっている」という指摘を受け、 「必ずしも浮力と表面積が関係性があるとは言えない」と考えを改め、実験方法を検討・改善していきます。
改善した方法は、浴室用パテ(水中でベタベタしがちな粘土の代わり)を用いるものでした。 同じ体積のパテを、球状にしたものと、凹凸を付けたものにわけて実験を行いました。 こうすることで、体積は一定にして、表面積だけを変化させたのです。 この結果から、浮力は体積変化に関係していることを見いだしました。
最後に、浮き沈みをする仕組みを力の矢印を用いて表しました。
その際、
・干しブドウに加わる重力は(ほぼ)一定であること。
・気泡が付くことによる体積変化によって浮力の矢印の長さが変化すること。
・ビーカーの底面では垂直抗力が働くこと。
を考慮していました。
授業を通して、干しブドウが浮き沈みをするようすを、力の矢印を用いて表現することで、 合力や力のつり合いを意識して、運動を捉えることができました。
参考:新井直志「炭酸飲料と干しぶどうを用いて、力の働きを考える」 『理科の教育』Vol.71 No.838 p52 東洋館出版社2022
執筆:高橋政宏(理科サークル「SCIENTIA」)
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