髙橋政宏(静岡大学教育学部附属静岡中学校)
1 はじめに
「てこ」は小学校6年生で学びます。その後,高校の物理における力のモーメントを習うまで,ほとんどてこは扱われません。(中学校3年生でもてこは扱われますが,仕事の原理の一例として扱われるに過ぎません。)
前任校では小中一貫教育に取り組んでいたため,小学校6年生に対して理科の授業を行うことができました。本稿ではその時のてこの授業をご紹介したいと思います。
授業ではてこを学ぶ際,支点を回転軸ととらえ,【M(モーメント)=F(力の大きさ)×L (回転軸からの距離)】を意識させた授業展開を実践しました。6年生でもてこを本質から理解でき,高次概念であるモーメントの導入ができることがわかりました。
2 「てこの授業」の展開(10時間扱い)
(1)1時間目
[ バネをのばすにはどのような方法があるのでしょうか。 ]
ばねを伸ばすいろいろな方法を考えさせて,実際にばねを伸ばします。ばねを手で引きのばしたり,物をつるしたりする子が出てきます。体験を通して,ばねの伸びは力の大きさを表すものであることを実感させます。
その後,おもりを下げた時にばねが伸びる現象を見せながら,「おもりの重さは力の大きさと考えてもよさそうです。これからは「~g分の力」と表現しましょう」と説明を加えます。
(2)2時間目
[ 身近なもので「回転運動」をするものを探しましょう。 ]
回転運動は回転軸を中心に回る運動(1周しなくてもよい)であり、「時計の針」「ドア」「はさみ」など身近にたくさんあることに気づかせます。(後でこれがてこであることに気づきます。)
(3)3時間目
[ 軸の左側に40g分の力,右側に20g分の力がはたらいたとき,いつも左に回転するのでしょうか。
ア いつも左に回転する
イ いつも左に回転するとは限らない ]
シール状のマジックテープ(メス面)を張り付けた段ボールの重心に竹串を刺したものを用意します。また,タコ糸の一方の端にマジックテープ(オス面)をつけ,もう一方の端にクリップをつけたものも用意します。この教材を使えば,段ボールの面上のどこにでもおもりを脱着させることができます。
この教材を用いて,おもりの位置を変えると右側にも回転することに気づかせます。その際,「右に回転するときと左に回転するときのきまりって何だろう」という疑問をもたせます。
(4) 4時間目
[ 「実験用てこ」を用いて,どのようなときにどのような回転をするのかを調べて,表にしてみましょう。 ]
回転方向には力の大きさ(おもりの重さ)とその距離に関係があることに気づかせます。
また,力の大きさ×回転軸からの距離のことを「モーメント」と呼ぶことを教えます。
(5)5時間目
[ モーメントの練習問題を解こう。 ]
レベル1からレベル5までの演習問題を用意し,力の大きさと距離と回転方向の関係を確認します。レベル順に問題を解かせることで,これまで学んできたことを,てこの原理に結び付けていきます。 (問題はここでは省略)
レベル1…回転方向を考えさせる問題
レベル2…つり合いを考えさせる問題
レベル3…力の大きさを考えさせる問題
レベル4…回転軸からの距離を考えさせる問題
レベル5…てこの原理に応用させる問題(右の点を押し下げるときに,左の点で生み出すことのできる力の大きさを考えてみよう)
(6)6時間目
[ 針金が水平になっています。この針金の右半分を曲げたら水平のままでしょうか。
ア 水平のまま
イ 右に傾く
ウ 左に傾く ]
針金ハンガーの下部を切断し,伸ばしたものをスタンドにぶら下げて水平にします。
針金そのものの重さと支点からの距離によって,求められるモーメントの大きな方に傾く事を活用させて考えさせます。
〈結果〉左に傾く
(7)7時間目
[ なぜ重たい石を簡単に持ち上げることができるのでしょうか。これまでの学習から説明してみましょう。 ]
実際にてこを体験させて,持ち上がらない重さの石をてこを使えば簡単に持ち上げることができる体験をさせます。その上で,これまでの学習を生かしてこの原理を説明させます。
その際,子どもたちの説明を生かしながら,てこには支点・力点・作用点があることを教えます。
(8)8時間目
[ 身近なものに隠れているてこを探そう。 ]
改めて,てこには【大切な3つの点】かあることを確認した上で,以下の絵からそれぞれの点を探し出させます。
【大切な3つの点】
支点・・・・回転軸のこと
力点・・・・さわって力を加えるところ
作用点・・目的のものに力がかかるところ
この絵では支点を赤丸で示してあります。授業では赤丸を示していない絵を子どもに配付しました。支点とは回転軸のことであると認識できると理解が深まります。
(9)9時間目
[ ペーパーテストの実施 ](内容は割愛)
(10)10時間目
[ 左腕の3番に20g分の力のおもり1こと,1番に同じおもり2こをつけます。右腕のどこかに同じおもりを1こつけてつりあわせましょう。
チャンスは1回だけです!どこにつけたらいいでしょうか。 ]
モーメントの足し算が合計のモーメントになることに気づかせます。
3 おわりに
回転でてこを学ぶと,子どもたちはまず「回転軸」である「支点」を探します。支点がわかれば力点と作用点は容易に理解できます。例えば「爪切りはどこが支点かわかりますか?」と問えば,子どもたちは「どこを軸に回転しているだろう」という発想で爪切りを見るようになります。さらにおもしろいことに,回転しているものを見るとすぐに支点を探したくなるようです。小学生は支点探しゲームを始めます。中学生を相手に授業をし続けていた自分にとって,学びをすぐに遊びにできる小学生の柔軟性には感動すら覚えました。
4 参考文献
・北村俊樹『図解入門よくわかる高校物理の基本としくみ』(秀和システム2004).
・山口勇一(2016)「てこのはたらきてんびんとの違いに気をつけて」『理科教室』2016年10月号
【注】この髙橋さんの元の報告はA4版で4ページ半です。ここでは報告の一部が省略・編集された「科教協ニュース№59(2021.5.28)」からの転載を元にしました。尚、全文は「理科教室」2021年5月号(科教協編集 本の泉社発行 1,000円)に掲載されました。 (科教協静岡)