最終氷期以後の1万1700年前から現在までは、地質年代で 新生代 第四紀 完新世 とよばれている。 そこに、「人新世(anthoropocene)」という新しい地質年代が提案された。 それは、西暦2000年、大気化学学者のPaul Crutzenと生物学者のEugen Stoermerの共著論文「The“Anthropocene”」が発表され、その中で「地球と大気に対する人類の活動が及ぼす、地球スケールでの大きな影響を考慮するならば、現在の地質学的画期(*)に対して “人新世”という用語を与えることで、地質学や生態学において人類が中心的な役割を果たしていることを強調することが適切なように思われる」と述べたことによる。
つまり、完新世の終わりの現在に近い時期に、人間の自然に対する影響が強くなって「人新世」という地質年代が新たに始まったと考えたのだ。 もちろん、これは国際的な学会で正式な地質年代としては承認されていない。
しかし、考えてもらいたい。
中生代の終わりに巨大隕石が落下し、地球規模の環境変化が起こり、恐竜などを中心に大絶滅が起こった。 それが中生代から新生代への変化のきっかけとなった。 だが、現在の生物種の絶滅スピードはそれをはるかに超えている。
現在、世界では年間約800万トンものプラスチックが、ごみとして海に流れ込んでいる。 ジャンボジェット機約5万機分である。 このままだと、2050年には海にいる魚の量よりプラスチックの方が多くなってしまい「プラスチックの海」になると懸念されている。 もうすでに、プラスチックを含んだ地層は作られているだろう。
また、1945年の原子爆弾から始まる原子力利用、つまり核実験や原子力発電所は、放射性物質を自然界に拡散・蓄積している。
19世紀初めの産業革命以来、大気中の二酸化炭素・亜酸化窒素・メタンなどの濃度は上昇の一途である。 これらは、南極を中心とする氷河の中に閉じ込められている。
地質年代は、地層中の化石・成分などを根拠に区分されてきた。そうであるならば、「人新世」の根拠は十分にある。
「人新世」の提案は、「現在は人間が環境を大きく変えている時代である」という認識から来ている。この認識には以下のような意味があるだろう。
1.人間による環境破壊についての見方や取り組み方を考え直す。
2.人々にとっての「豊かさ」とは何かを考え直す。
3.人々にとって自然とは何かを考える。
4.国家間や社会階級層間の格差や不平等についてどう考えるか。
これまでの環境破壊をもたらした人間活動の恩恵は先進国が享受してきた。 これからの途上国の開発は人類にとってさらに大きな課題となる。 途上国に対し「開発するな!」とは言えないし、先進国が我慢することで格差を解消することも出来ない。 ましてや、これまで通りも出来ない。
これからは新しいルールのもと、持続可能な技術開発によって、この地球という惑星の中で生きていく科学的根拠のある提案を期待する。
付記:*「地質学的画期」は、「地質学的に著しい進歩・発展・飛躍が見られる区切り」という趣旨。
文責:篠崎勇(科教協静岡)shizuoka_koko_rika_c@yahoo.co.jp