5月12日(日)の9:30~16:00に、今年は静岡大学教育学部附属静岡中学校をお借りして、恒例の研修交流会を開きました。
事前申込は取らない当日受付のため、いつものように開始15分ぐらい前までは心配になるくらい少ない参加者でしたが、 開始時間の頃には会場の理科室がほぼ埋まるほどでした。
参加者は講師のみなさんも含めて合計で40名弱で、たいへん充実した集まりになりました。初参加の方も目立ちました。
事前の宣伝では、会員への連絡とともに、県中部の小・中・高校宛てに4000枚のちらしを送りました。 また、Webの教育サイトへも登録をしています。
(1)全体会「実験講演」:「『S-cable』を活用した電磁気学習」
講師:杉原和男さん(科教協会員、サークル「京都パスカル」に参加、元京都市青少年科学センター勤務)
杉原さんから大量の実験道具と「お土産」が事前に届きました。 また、当日は午後の部にもかかわらず午前中から準備を整え、講演では約3時間みっちりとお話と実験紹介がありました。 「お土産」の「S-cable」は、費用がかかるのにもかかわらず、60ページを越すテキストもつけて、参加者に無料で提供していただきました。 すぐに活用できるありがたいものです。
杉原さんが開発した「S-cable」は、理振の備品である5A電源装置で電磁気の実験が観察できる、強い磁場が得られるものです。 多芯電線を使い、ケーブルの内部の芯線を一段ずらしで接続し、内部でコイル状にしたものです。 その結果、ケーブルの内部が10芯の場合、電源装置の4Aの電流でも断面には40Aの電流が流れることになり、
この実質的な大電流でケーブルの周りには強い磁場が発生します。
この装置は開発から41年が経過し、初めはエルステッドの実験のために開発したものだが、いろいろな実験に使えるようにしてきたとのことです。 1992年に「東レ理科教育賞」の本賞を受賞されました。 この装置の寄贈を受けた学校や教員だけでなく、各地の科学館等でも展示や実験にて活用されています。 また、タイやフィリピン等での研修の講師もされているそうです。
【参考】「S-cable」の簡単な紹介は、講演案内のちらしにあります。 →
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杉原和男さんのホームページ:「午後の理科室」(https://www.eonet.ne.jp/~sugicon/)
【内容概要】
1)エルステッドの実験(電流の磁気作用の実験)
2)ローレンツ力の実験(電流が磁場から受ける力の実験)
3)電磁誘導(発電)
4)電磁石 【注】小学校の教科書の「コイルの中に鉄くぎなどの鉄片を入れて電流を流すと、鉄片は磁石になる。このしくみを電磁石という」は、誤り。 コイルなしでも電磁石はできる(元祖電磁石はコイルなし)。
5)音声電流で楽しむ電磁誘導(超簡単スピーカー)
【感想】
・電磁気のイメージが、S-cableによって大きく変わりました。
・教える上での大切な流れを、より理解できました。子どもにも流れを意識して伝えたいです。
・小学校5年生の電磁石の勉強で、きちんと原理原則をわかった上で教えられると思いました。 杉原先生の苦労が、Sケーブルへの思いにこめられていると思いました。
(2)小学校中学年講座 講師:小幡勝さん(科教協東京)
現科教協事務局長の小幡さんには、ここ5年間小学校講座の講師をお願いしています。 やさしい語り口で、子どもの理解を深める授業方法や実験・観察を紹介されました。
【内容概要】
1)3年 「物の重さ」の単元
2)3年 「太陽と影の動き」
3)3年 モンシロチョウの観察
4)3年 「日なたと日かげの地面のようす」
5)4年 「物の姿と温度」
6)4年 「電気の通り道 電流と回路」
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【感想】
・年間計画をもとに、どうやればいいか、ポイント、注意点などと具体的な話があり、分かりやすくてよかった。明日からいかせそうです。
・モンシロチョウなど、季節や飼育がいつもできる訳ではないものの代案を教えて下さった。
(3)小学校高学年講座 講師:丸山哲也さん(科教協山梨)
現科教協委員長の丸山さんには、およそ10年間小学校講座の講師をお願いしています。 毎年熱っぽく、わかりやすく、本質にせまる授業方法や実験・観察を紹介されています。
【内容概要】
1)今、授業で困っていること
・メダカの飼育方法と、卵の成長過程の観察方法
・植物教材を深く学ばせるための「お料理番組方式」
・植物の受粉実験が成功しないので、どうしたらいいのか
2)5年 メダカの飼育
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3)6年 緑の葉からデンプンの検出法(たたき染め法)
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4)煮干しの解剖
・仮説実験研究会で発表された、煮干し(カタクチイワシ)を使うもの。 生の生き物の解剖ほど抵抗感がないが、脊椎動物の基本的な器官の存在を、十分に知ることができる。
【参考】過去の記事に「煮干しを使った魚の解剖」がある。
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5)だ液による糖化実験 ― 片付け簡単、子どもに嫌われにくい方法
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【感想】
・たたきぞめが、特に参考になった。知っていたことでも改めて参考になることが多かった。
・よう素でんぷん反応に関して、技術及び知識を深めることができた。
(4)中学校・高校講座
講師:理科サークル「SCIENTIA(スキエンティア)」のみなさん
1)身近なものでイオンが好きになる!アルミパック電池 西村紳一郎さん
西村さんの資料では、「化学変化とイオン」の単元は、「中学生が理解する上でとても難しい単元」で、 「それは、目に見えないイオンの粒を想像して、目に見えない電極板での電子のやりとりを考察しながら、電気分解がどうやって起こるか、 電池の中でどのような化学変化が起こって電流が生じるか、酸・アルカリの中でイオンがどのように反応するか、といったことをつかむ必要があるからです。」
そのために、給食のご飯(アルミ)パックを使った課題も使って、電池のしくみにつながる実験を工夫しています。
西村さんから、この単元のワークシート(30ページ)も使って、紹介がありました。
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2)アトウッドの実験 ― 子どもが発見!見出せる!慣性の授業 石神克海さん
「力がつり合っているとき速度が変わらない(慣性)」ということは、生徒にとって言葉ではわかったつもりになっても、 気持ちにすとんと落ちて理解することが難しい内容です。そこを、簡単な工夫をした実験装置を使った問いで話し合わせています。 正答は初めが(1/4)以下、話し合い後も約(1/3)だそうです。
実験装置は、手づくりでスムーズな動きができるような工夫がされています。
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3)立体前線モデル ― 気象を時間・空間的な視点で捉える 中澤祐介さん
中澤さんの資料には、前線の授業では「時間的・空間的な視点でとらえて理解することが重要である」のに、 「平面上の前線の図や天気図では、立体的なイメージを働かせることは難しい」。 そこで「立体的なモデルを用いて、空間的な広がりや、天気の時間的な変化をイメージできる授業実践」を開発したとのことです。
手近なもので自作したモデル装置は、生徒の班ごとの作業も可能ように工夫されていて、現象が良く理解できるものです。
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4)気象を「自分ごと」にするために ― ICTと自分をつなげる天気の学習 高橋政宏さん
高橋さんの資料には、生徒の「気象は暗記すればいいから簡単だよ」の声に反省した。 「気象の学習は実験も少なく、覚える用語や事象も多いため、生徒の目にはそのように映るらしい」。 そこで、「気象の授業が現実離れせずに、『自分ごと』になりうるような授業実践を行おうと考えた」とのことです。
インターネットからそれぞれ入手したデータを活用して、天気図と気象要素の規則性も見つけられるものです。
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【中学校・高校講座の感想】
・化学変化とイオン、慣性の授業についてお話を聞きました。どちらも、自分の今後の授業に取り入れたい内容でした。 ”課題解決学習””身近な教材”がやっぱり大事だなぁと。 (毎回)参加させていただいていて、いつも刺激をいただいています。たいへん勉強になりました。
・天気(気象)の立体モデルが、特に興味深かったです。
・ICTを利用した授業など、今後活用したいと思いました。
・中学校での学習内容や先生方の教材工夫が、大変参考や刺激になりました。
(5)実験小器具・地学標本の紹介・頒布
科教協などから学んだり、科教協全国大会の「科学お楽しみ広場」で収集したものなどの、実験器具と実験方法や標本を紹介しました。 退職時にどこかに残してくる判断ができなかったこともあり、現在手元に残っているものを無償か有償(本当に必要な方へという意味で100円ずつ)でお譲りしました。 (長谷川静夫)
【アンケートより「興味を持ったもの」】
LED、コンデンサー、岩石、静電気、大気圧/梅雨どきでも静電気実験、植物化石、大気圧/化石や簡易なもので作った実験器具
(6) 子ども向け「地球観測衛星の本物データ解析ワークショップ」支援ボランティアの募集
小学3年から6年の30人の小学生が3人ずつ10班で、光の学習をした上でPCを使い、JAXAの講師のもと地球観測衛星のデータの解析に挑戦する企画です。 ここに、自分のノートパソコンを持って参加し、支援をしてくださるボランティアを募集しています。 8月末までに、下記までお知らせください。
各自のPCにダウンロードした解析ソフトと人工衛星のデータは、その後自由に使うことができます。
① 日時・会場:10月27日(日)11:00集合~16:00終了予定 菊川市六郷地区センター
② 11:00~12:00:事前の準備として、データとソフトのダウンロードと使用方法の解説、質疑応答
③ 昼食:少年団で弁当を用意
④ 13:00~16:00:少年団のワークショップ(分担して各班について、活動をサポートする)
連絡・問い合わせ先:きくがわ科学少年団 山内一徳さん
090-3444-9440 ymchkznr@sea.plala.or.jp 「きくがわ科学少年団」の紹介記事
以上の記事は、研修交流会当日の参加者の記録、講師の資料、「科教協ニュース№718」の記事(科教協静岡 片山昇)も参考にして、 科教協静岡 長谷川静夫が作成しました。