ふじのくに地球環境史ミュージアム(以下:ふじミュー)中庭の池に、ハスが麻機遊水地から移植してある。盛夏に美しいハスの花をご覧になった方もいることでしょう。私もその一人で、ふじミュー2階の窓から池を見ていた。丸いはずのハスの葉がまるで傘の骨のようになっている。『何かに食われている!』そう思い、急いで池に下りてみた。(Figure1・Figure2)
棘の特徴から、通称デンキムシ、つまりイラガの幼虫のようだが、ハスの葉を食べるイラガは知らない。
家に帰り、インターネットで調べてみた。背面中央に青色の縦帯があり、体の一部にだけ朱色の棘があるので、ヒロヘリアオイラガ(Parasa lepida)の終齢幼虫と思われる。
私が学生時代から愛用している「学生版 日本昆虫図鑑」(北隆館 昭和54年9月新版初版)で調べてみた。この昆虫図鑑は2,533種が収録されている。しかし、掲載されてはいなかった。その理由はすぐに分かった。外来生物だからだ。
国立環境研究所の侵入生物データベースのホームページでは、「1920年頃、インドまたは中国から樹木の移動に混入」という記載がある。また、神奈川県衛生研究所のホームページには、「従来鹿児島市内でのみ採集されていましたが、1970年代後半以降西日本各地に見られるようになり、近年関東地方でも見られるようになりました」とあり、「幼虫は7~10月頃にサクラ、クスノキ、エノキなど多種類の樹木に見られます」という記載もある。
ここからは私の想像だが、池の上に枝を広げているクスノキに生息していたヘリヒロアオイラガの幼虫が、ハスの葉に落下し、水面を渡ることができず、そこでハスを食べたのかもしれない。でも、冬には枯れてしまうハスの葉なので、たとえ繭になったとしても冬は越せなかっただろう。
しかし、いずれにしても、どこをどう調べてみても、ヒロヘリアオイラガの幼虫はハスを食べるという記載は見当たらなかった。
【ヒロヘリアオイラガ幼虫食餌植物】バラ科:サクラ・カナメモチ・ウメ・ソメイヨシノ、カエデ科:モミジ、モクセイ科:ヒイラギモクセイ、クロウメモドキ科:ナツメ、トウダイグサ科:ナンキンハゼ・アカメガシワ、マメ科:エンジュ、ウコギ科:セイヨウキズタ、スイカズラ科:サンゴジュ、カキノキ科:カキ、クスノキ科:クスノキ、ブナ科コナラ属:ウバメガシワ、モクレン科:モクレン、メギ科:ナンテン、ニレ科:ケヤキ
篠崎 勇(NPO 自然博ネッ ト正会員・ふじのくに地球環境史ミュージアムサポーター) (shizuoka_koko_rika_c@yahoo.co.jp)
ヒロヘリアオイラガの食草に関する報告
自然史系文化祭 『自然史しずおか祭2018』
「科教協静岡ニュース」№48に掲載