「静岡理科の会」での高橋政宏さん(静岡大学教育学部附属静岡中学校)の報告です。
「内藤記念くすり博物館」で入手した、江戸時代の人体図( 歌川国貞 「飲食養生鑑」)を活用した授業報告を受けて、少しの時間でしたが話し合いをしました。人体図も高橋さんの実践も、興味深いものでした。以下、高橋さんの資料をもとに編集しました。
(1)「江戸時代の人体図」の実践の概略
生物の体は生命維持のために、色々な器官が複雑に関連し合っている。しかし、授業となると器官ごと指導をするにとどまり、それらの関連性については重要な扱いをされないことが多い。人体は生命維持という目的のために、各々の器官が役割を果たしながら、互いに関連し合っていることが神秘的であるため、生徒にはその感動を味わわせたい。器官の関連に目を向けさせる導入として、「人体図」を用いた実践である。
(2)「江戸時代の人体図」(「内藤記念くすり博物館」の資料「飲食養生鑑(かがみ)」)
この人体図は、19世紀(江戸時代)に描かれたものである。内容から大衆向けに発行されたものと推察されるが、定かではない。
絵には、臓器で漫画のような小人たちが仕事をしているようすが描かれている。またその周辺や余白にはその説明らしき言葉が記されている。ブラックボックス化している体内の様子を、その働きを中心に大衆向けにわかりやすく示されたものである。ただし、現代の常識からするとウソである記述も多い。
[資料]内藤記念くすり博物館で、レプリカ(ポスター)「飲食養生鑑(五臓六腑と消化のしくみ)」
「房事養生鑑(妊娠・出産のしくみ)」2枚組1,200円(Web)
ポスターを利用するには、画像使用申請書(Web)で申請する必要がある。
(3)授業での活用例:テーマ「平成の人体図をつくろう」(中学2年)
江戸の人体図に負けない、詳しく、わかりやすい人体図を、グループごとにつくるよう投げかけた。
同じ疑問を持った者同士でグループを作る → 元のグループに戻って情報交換(平成の人体図を作
る) → 発表 → 評価(他のグループを)
その際、教師から「細胞の呼吸が成り立つための、人体の仕組みを説明するもの」であるよう伝えた。生徒たちは、細胞の呼吸と各器官がどのようにかかわりあっているのかを考えながら、人体図を作成していった。
[理科の会での話し合いにて]
高橋さんから、「江戸の人体図は字が読めそうで読めないし、絵が分かりそうで分かりにくいのが、かえって良かった」「この人体図は現代と違っているから、子どもたちは知っていることからいろいろと言い出すことができた」「教科書では、人体の各パーツから授業を進めるようになっている」と説明があった。
話し合いで、「『細胞の呼吸』でエネルギーが発生する」ということについて、高橋さんは、
O2 + 養分 → 細胞 → CO2 + 水 + 不要分
↓
エネルギー
「この関係を、子どもに気づかせる(発見させる)ことは難しい。子どもは、『細胞の呼吸によってエネルギーをつくる』ということを、『エネルギーをつかう』ことと混同したイメージを持ってしまう」と言います。
この後、「細胞の中で、『燃える』と同じ現象が起こっているという意味がある。エネルギーは、『熱を出す=火を燃やす』ということだけではない」「そもそも、体は細胞でできている、体の働きの全てが細胞でやっていることというイメージがない」「細胞が何をしているかが、教科書にはない。細胞そのものについてと、どういうことをしているのか分かっていないので、細胞がエネルギーを出すということはむずかしい」「『胎児は呼吸をしているか』という問いを、導入にした」という意見がだされました。
・現指導要領 → 中学1年に、「細胞の観察」「(植物も)呼吸をしている」がある。
中学2年に、「動物・植物の細胞観察」「細胞の呼吸」がある。
・新指導要領 → 中学2年で、「生物と細胞」(動植物の細胞の共通点と相違点)となる。
・小学校 → 「細胞」はない。
[理科サークル「SCIENTIA」の例会にて(ニュース「Serendipity」№49から)]
江戸の人体図をどう生かすか
・「活動あって学び無し」 にならないようにしたい。
・プレゼンを入れるというのは、教科横断的なスキルとして必要。一つの実践としては良いと思う。
・小学校で消化管を学んでいる。小学校の既習事項をいかしながら、江戸の人体図の妥当性を考えさせることで、課題の発見をさせたい。
・臓器の位置、臓器の働き、臓器の形を教えるきっかけに使えそう。
・物質のやりとりをまとめることが大切ではないか。システム全体として、大局的な目で見ることができる力を育成するきっかけにしたい。
・「食べる」ことで、単元をつなげられそう。
・つながりを図示させることで、理解が一目瞭然。評価のための資料としても有効ではないか。
・単元を進めながら、平成の人体図を作っていくという方法もできるかもしれない。
・植物の体の仕組みを、江戸の人体図のように描かせられないか。
問い合わせ先:高橋政宏 m-takahashi★ra3.so-net.ne.jp(★を@に変えてください)