「静岡理科の会 & 科教協全国大会準備会」が、2015年9月26日(土)の午後に、静岡市の生涯学習センター「アイセル21」で開催されました。その前半で紹介した授業報告(静岡高校)です。静力学(力やつりあいでの力学)は、中学でも高校でも簡単に済ますこともあり、高校になっても十分に理解できない傾向が見られます。
(1) 力は身近な現象で、力を加えたり受けたりすることはよく経験することだが、力そのものは目で見えないため、誤解をしたり理解が不十分になります。
「静岡理科の会」での発言から、
・力は分かりにくいが、体験すると分かることがある。例えば、2人が別々の台車に乗って、一方が他方を押すと、両方とも動く。(作用・反作用) → ただし、押された方が体をのけぞらせると、台車が動かない場合もある。押される方に板を持たせて、その板を押すようにすると良い。(実際に実験をするには注意点やコツがある。授業での経験を広めることが大切)
・中学では、力(静力学)と運動(動力学)がつながっていた時代には、力を面白くやれた。今の1年と3年とに内容を分けることは、意味がない。
(2) 授業初めの実験 ― 水素ガスに重さはあるか?
[問] 右図のようにして、鉄製のボンベをはかりに乗せ、中を真空にしたときと、中に水素ガスを入れたときとで、重さはどうなるか?(鉄製ボンベとしたのは、容器が浮くとかの迷いをさせないため)
[反応](生徒の反応:近年では静岡高校の1年で)かっては、水素を入れると軽くなると答える生徒もかなり多かったが、最近では、水素を入れたときの方が重いと答える生徒が多い。しかし、確信を持てない様子も見られる。
[実験] 私は、1~0.5Lのプラスチックやガラス容器を使う。(料理道具「AIRFRESH真空キャップセット」「FRESHVacuumContainer」)付属の簡易真空ポンプで空気を抜いたり、袋に取った水素を容器に吸い込ませると、秤量(最小目盛)が0.1gより小さいはかりならば、変化の測定が可能。
[考察] 水素(どんな物)でも重さがあり、真空(何もない)よりは重くなる。浮力が混乱の元だが、浮力は空気(流体)の分子が(分子運動で)衝突し容器を押し上げて生じるので、容器中の物が何であっても浮力の大きさは同じ。水素に浮力がはたらく訳ではない。
(3) 浮力は、粒子の運動で生じるという実験
[実験] 透明容器の中に入れた米粒をバイブレーターで振動させると、米粒の上にあった鉄球は沈み、米粒の中に埋まっていたピンポン球が浮き出てくる。
[考察] なんとなく意識している鉄球は重い(密度が大きい)から自ら沈み、ピンポン玉は軽い(密度が小さい)から自ら浮くのではない。周囲の米粒の運動があるから、浮き沈みが生じる。
(4) 液体や気体の浮力のしくみは?
[実験] ①
水深によって水圧が違う。(販売されるときに釣り竿が入っている、円柱状のプラ容器に穴を開けると活用しやすい)
② ペットボトルの口側を使って、ピンポン球かスーパーボールを口に置いて水を入れると、球は浮き上がってこない。口を下から手でふさぐと、球の下側に水が入って球は浮き上がる。(実際は初めから水が少しずつもれ続ける)
[考察]
実験①より、水圧のしくみ③④が誘導できる。
実験②より、下からの水圧(水の分子運動)がなければ、浮力が生じないことが分かる。
水圧はその面の上にある水の重量(重力)だから、浮力は上下の面の圧力差で生じる。
浮力の法則について、アルキメデス(古代の原子論者)が言った「水の中では、物はその排除した水の重さに等しい力で押し上げられる」で説明したい。アリストテレス派(粒子説の否定派)の「水の中では、物はその排除した水の重さの分だけ軽くなる」は、「重さ(質量・重力)」が小さくなるとも受け取られ、誤ったイメージを植え付けがちである。
(5) 付録 ―
浮力に関する不思議な実験(浮沈子)
[実験] 魚形の醤油入れ浮沈子を、ペットボトルに満たした水に入れキャップを閉める。上部で浮いている浮沈子が、言った色の順で降りてくる。(図1)
【注】この実験は、私は最初の授業(授業開き)で見せる。中学で浮沈子を知っている生徒もいるが、不思議がられる。
[反応] これは科教協全国大会の「科学お楽しみ広場」で教わったことだが、「キャップを閉めたペットボトルの中から、魚の醤油入れに縛った見えないひもが外に伸びている。そのひもを引っ張るので、言った順に降りてくる」と言い、本当にペットボトルの下からひもを引くまねをすると、本当かとのぞき込む生徒も出てくる。
[しくみ]
この浮沈子は、しょう油入れの口に、重しとしてのナット(六角ナットM6)をはめたものに、色づけをした。(図2)
中に少し水を入れて、浮き具合を調節する。(図3)初めに降りる青は、中の水が多めで浮力が小さい。
ペットボトルを持つ手で力を加えると水の圧力が増え、しょう油入れ内の空気が縮んで(体積が減り)浮力が減って降りてくる。浮力(中の水の量)を調節して順に降りるようにする。
(6) 空気や水に浮く物の重さは、全て下にかかるか?-飛ぶ鳥の重さは?
[問] はかりに乗せた密閉した箱の中で鳥を飛ばすと、鳥の重さ(例えば100g)は、まるまる100g下のはかりに表れるか? あるいは、0~100gの間か? または、全くはかりに表れないか?
[反応]
まるまる鳥の重さがはかりに表れると、自信を持って言える生徒はあまりいない。
[実験] 鳥を飛ばす実験は難しいとしても、科教協では、密閉した箱の中で模型のヘリコプターを飛ばして、ヘリコプターの重さが全て下のはかりに表れる実験を紹介された。
この実験装置は簡単には作れないので、代わりとして、はかりの上に置いた水の容器にビン(物体)を浮かせて、浮いたビンの重さが全て下のはかりに表れることを示した。
[考察] 物が浮いていても、はかりの上にある物の重さ(重量・重力)は、全て下のはかりにかかる(表れる)ということ。重さ(この場合は質量という意味)が消えてしまうことはない。浮いているビンの重さでビンが水を押して、水はその分が加わって下のはかりを押している。
飛行機の下にいても、その重さがかかって下の家や人がつぶれないのはなぜ?と混乱させることもする。飛行機では、広い面積(地面)で力を受けるため、真下でも気づかない。ただ、飛行機の真下では、気圧が増えるそうだ。
【注】「重さ」は「質量」と「重力」とを表すあいまいな概念なので、この後では使わない。
(7) 磁力で反発して浮く上の磁石の重さも、全て下にかかるか?
[実験] ドーナツ型のフェライト磁石2つを、互いに反発する形で一方を浮かして置き、それをはかりの上に乗せる。(写真は、デジタルばかりだが普段は台ばかりで実験する。理由は下記)
[考察] 上の磁石の質量は、重力として磁石の反発力(磁力)を通して下の磁石にかかる。はかりの上の質量は消えてなくならない。
(8) 水の中につるした物の重力と浮力を、力のつり合いで考える
[問]
ばねばかりでおもり(例:質量500g、体積64cm3)をつるして水に入れると、ばねばかりと台ばかりの目盛は、それぞれいくらを指すか?
[反応] (4)の浮力のしくみ(アルキメデスの原理)より前に取り組むときでも(もちろん中学までに学んでいるはずだが)、予想を立てられる生徒はいても、多数ではない。
[実験] ばねばかりの目盛と、台ばかりで増えた分の目盛の和が、おもりの質量の500g分を概ね示す。(もちろん、目盛の精度は良くないが、こうした実験ではデジタルばかりよりも、誤差も含んでだいたいで結果が示される方が良いと感じている。)
[考察] ばねばかり:500-64=436、台ばかり:水+ビーカー+64となり、おもりの重力はばねばかりと台ばかりで支えていて、おもりが水中で浮いていても(ビーカーの底に触れていなくても)、その質量が消えてしまった訳ではない。浮力の大きさ(64)の確認にもなる。
(9) 目で見て変形が確認できない物も力を出している ― 糸は?
[問] 図のように、鉄のクリップを空中で固定することができるだろうか?
また、クリップが受けている力(はたらいている力)を考えてみよう。
【注】「受けている力」の表現は、力は「及ぼす物」より「受ける物」の方が、運動力学(運動の法則)では重要になるので、受け手の物を主語にして、かつ強調する表現。ただ、教科書的には使われることが少なく、生徒は慣れないので、私の場合は説明するがあまり強制はしない。
[反応] この写真は中学の教科書でも見かけたこともある。クリップが受ける重力や磁石からの力は分かるが、糸が力を及ぼしていることを、全員の生徒が答えられる訳ではない。また、こうした変形が見えない張力や抗力を知っていても、計算上必要となる「仮想の力」と理解しているふしも見受けられる。
[考察] 糸が出す張力は、力を受けて伸ばされた糸の「分子」が元に戻ろうとして両端を引く力で、ばねと同様なものと説明する。
「静岡理科の会」での発言から、
・この糸を切るとクリップがビューンと飛び上がり、力があることがよく分かると紹介されました。
(10) 鉄は磁石を引くことができるか? ― 作用・反作用の法則
[問]
磁石(U字型アルニコ磁石)は鉄を引きつける。では、鉄は磁石を引くことができるか?
[実験] 手で押さえた磁石の下にチョークとか鉛筆などを置いて摩擦を減らし、鉄片を近くにセットして磁石を押さえることをやめると、磁石が鉄片に引かれて動く。
[反応] 鉄も引く力がある、それは磁力であるとは、自信を持って言うことはできない様子。
[考察] 磁石と鉄は互いに磁力で引き合っている。それは作用・反作用の法則で当然のこと。
(11) ジャンピングトイは、何からの力で飛び上がるか? ― 物が動くのは外からの力で
[問] (吸盤を台に吸い付けて手を離すと、しばらくして吸盤が外れ縮んだばねが元に戻ろうとして、勢いよく飛び上がる)ジャンピングトイは、何からの力で飛ぶのだろうか?
[実験] (写真は、ゴジラの形をしたジャンピングトイ) ①吸盤を台に吸い付けてつるすと、②吸盤が外れても、吸盤と台が外れるだけで、ジャンピングトイ全体には動きはない。③物(木片)と並べてつるすと、④吸盤が外れるとき、ジャンピングトイは激しく飛び離れる。
[考察] もちろんジャンピングトイは、ばねの伸びる力があって飛ぶ訳だが、ジャンピングトイ全体がばねの力(ジャンピングトイにとって内力)で飛び離れる訳ではない。(①→②)
物が運動をするのは、その物の外からの力を受けることで動く。ジャンピントイの底と物(木片)との間の作用・反作用で力を及ぼし合い、その結果、ジャンピングトイ全体は、物からの力(抗力)を受けて飛び離れる。
「静岡理科の会」での発言から、
・2つの違うジャンピングトイで実験すれば、質量の違いによる運動が分かるという提案がありました。(もちろん、写真の③④でも、同じ力を及ぼしあっているのだから、同じ力を受けたときに質量によって運動が違うことが表れています。ただ、イメージとして、お互いに同じ力を出し合っていると納得しにくいことはあります。) → 空中で2つのジャンピングトイのばねを縮めて重ねるのは、極めて難しいことです。 →
床に置いても実験はできるとの提案がありました。それはもちろん可能です。
以上の実践は、書籍「たのしくわかる物理100時間」(東京物理サークル) や「いきいき物理 わくわく実験」(愛知・岐阜物理サークル) を始めとして、「科教協」や「仮説実験授業」での実践を参考にして、その都度少しずつ修正しながら授業をしてきました。「まね」から始めることも大切だと思っています。尚、(5)浮沈子の実験は中永康裕さん(姫路理科サークル)から教わりました。
文責:長谷川静夫(科教協静岡) skrc@sf.tokai.or.jp