小学校中・高学年の子どもたちが集まる「きくがわ科学少年団」での山内一徳さんの活動です。小学生には分子やまして分子間力など、教科書には出てきません。学校の授業でないところでの活動ですが、子どもたちは「よくわかった」「おもしろかった」と言っているとのこと。子どもたちの興味や関心を、どのようにすれば引き出し応えることができるかなど、参考になると思いました。以下、山内さんの資料と実験から引用し編集したものです。文中の実験写真と【注】は編集者の追加です。(科教協静岡 長谷川)
まずはじめに、先生のやる実験をみんなでみてください。
実験 あきかんからながれだす2本の水のながれが ・・・
なぜ、この実験で水のながれは、2本が1本にくっついてしまったのでしょうか?
どんな理由でもいいのでみんなでかんがえてみてください。
メモ 自分のかんがえを書く。
【注】2つの穴から出る水の流れが、軽く指で重ねると1本になってしまうのは、水どうしの間の分子間力の影響で水が集まると考えられる。
読み物 水は、とてもちいさなつぶのあつまりです。この水のつぶのことを水の分子(ぶんし)といいます。そして水の分子は、実はおたがいにつよい力でひっぱりあっています。このような分子と分子がひっぱりあう力のことを「分子間力」(ぶんしかんりょく)
といいます。水だけでなくいろいろな種類の分子のあいだには、みんなおたがいにひっぱりあう分子間力がはたらいています。その力のつよさは、分子によってちがいますが、水の分子の分子間力はたいへん強いことがしられています。
クイズ 水の分子がたくさんあつまって、分子間力でおたがいにひっぱりあったら、ぜんたいとしてどんな形になるとおもいますか。①~③からえらんでください。
水は、強い分子間力で分子がおたがいにひっぱりあうために、できるだけ集まろうとして、まるい球のかたちになります。だから水玉(みずたま)というのですね。でも、草の葉っぱの上の水玉はまんまるではありません。それは、引力にひかれてつぶれているからです。だから引力のない宇宙ステーションの中ではまん丸の水玉がうまれます。
ガラスいたの上の水滴(すいてき)をかんがえてみます。図のように水の分子はおたがいに分子間力でひっぱりあっているのですが、いちばんそとがわの分子は、うちがわの分子からひきずりこまれようとしています。そしてよこの分子はおたがいにひっぱりあっているので、水滴の表面(ひょうめん)は、いつもちぢもうとしています。それはちょうどゴムふうせんがゴムの力でいつもちぢもうとしているのとよくにています。このように水の表面の分子がたがいにひっぱりあって、表面をできるだけちぢめようとするはたらきを表面張力(ひょうめんちょうりょく)といいます。
水だけでなく、いろいろな液体(えきたい)には、みんな表面がちぢまろうとする表面張力がはたらいています。きょうは、その表面張力をつかった実験をいろいろやります。
表面張力をみる実験
① シャボン玉の液の表面張力 先生の実験をみんなで見てください。
【注】手作りの装置(写真左)で、プラスチックの枠の上にガラス棒を置き、その枠にシャボン液をはる。ガラス棒で区切られた一方のシャボン膜を破ると、ガラス棒は膜がある方に引かれる。シャボン液は濃いものをつくる(既製品では薄くてできない)。
② 水の表面張力 水がこぼれるまでに何個のビー玉がはいるか。3人一くみで実験してみよう。やり方は先生の話をよく聞いてやること。
⇒( )個はいった!
【注】写真右のように、筒をさしたコップに水をいっぱいに入れておいて、その中に筒を利用してビー玉を入れていく。(後の実験のように水に洗剤を入れると、入るビー玉は半分ほどになり、違いがわかる) つまり水の表面には、表面張力によってちぢもうとするうすいまくのようなものがあると考えることができるでしょう。だから水がすこしぐらいもりあがってもこぼれません。
読み物 ふしぎなセッケンの分子
セッケンや、洗剤(せんざい)は水にとかすとよくあわがたって、よごれたものをきれいにするはたらきがあります。せっけんや洗剤のようなものをまとめて界面活性剤(かいめんかっせいざい)といいます。ここではみじかくして活性剤とよんでおくことにします。活性剤の分子は図のように、ひとつの分子の中に正反対(せいはんたい)の性質をもっているばしょがあるのです。
だからすこしだけ活性剤を水にとかしてやると、活性剤の分子は図のように全部水面にあつまって、水のきらいな部分を空気の中に、水のすきな部分を水の中にいれ、さかだちしたようになって水面にきれいにならんで、分子のうすいまくをつくります。だからその活性剤分子が水面でおたがいにひっぱりあっているのが、この時の「活性剤分子の表面張力」になるのです。シャボン玉液のまくの表面では、この力がはたらいています。
先生の実験 水の上に洗剤の分子がひろがってまくをつくるようすを見てみましょう。
【注】水面に胡椒の粉を撒いたところへ洗剤液をたらすと、粉を押しのけて洗剤液が広がる。
先生の実験 洗剤の表面張力と水の表面張力は、どっちがつよいか。
この実験から、( 水 )の方が表面張力がつよいことがよくわかります。
そこで実験 前とおなじ3人一組で。
水の表面張力の実験をもう一度やってみましょう。ただし、今度はちょっとやり方をかえます。まず小さいコップに洗剤をすこしいれ、さらに水をおなじていど加えてよくかきまわしてください。このうすめた洗剤液をスポイトで2~3滴、ビー玉をいれる前にコップの水にくわえてください。どうなるでしょうか。前の実験から予想してください。(なお、うすめた洗剤液は2人でひとつあればいいです。残りはあとからつかいます)
予想 ①前よりたくさんビー玉がはいる
②前よりすこししかビー玉ははいらない
③ほとんどかわらない
結果 ( )個はいった! この結果をだれか説明してください。 【注】結果は②
また実験 この実験は2人でやりましょう。
くばられた大きな白色トレイに水をいれて、そこにおおきいクリップをまげてつくった道具をつかって一円玉をうかべてください。水の表面張力で一円玉はしずみません。かわりばんこにやって、できるだけたくさんの一円玉をうかべましょう。そしてさいごに、一円玉の間をねらってまんなかにうすめた洗剤液を数滴落としてみましょう。どうなりましたか?
つぎの実験 この実験も2人でどうぞ。
まず、くばられたほそいはりがねでアメンボをつくってみましょう。つくり方は先生の説明とビデオをよくみてください。四本の足を平にすることがこつです。あたらしい白色トレイにみずをいれてください。そして、つくったアメンボをそっとうかべてみましょう。うまくうきましたか? そうしたら、ういているアメンボのそばに洗剤の溶液を数滴おとしてみましょう。どうなりましたか?
上の2つの実験は、洗剤をつかって水の表面張力を弱めた実験でした。洗剤のまくがひろがると、表面張力がよわくなって一円玉もハリガネのアメンボもういていれなくなりしずんでしまいました。(ほんとのアメンボではかわいそうなのでこの実験はやりません)
おもしろい実験 ・・・ はしれショウノウ船!
ショウノウというくすりがあります。このショウノウは、わずかに水にとけて、洗剤と同じように水の表面張力をよわくするはたらきがあります。このショウノウをつかって、おもしろいおもちゃをつくってみましょう。
① もってきた白色トレイをつかって、4センチぐらいのながさのちいさな船のかたちをきりぬきます。図のようにうしろの部分(ぶぶん)に四角いきりこみをつくってください。そこにうらからセロテープをはりつけます。
② くばられたショウノウをカッターできって4ミリぐらいの大きさにして、ピンセットでつくった船のうしろのセロテープの部分にそっとのせてやります。すこしおさえてショウノウがおっこちないように、セロテープにくっつけてやりましょう。
③ まえにつかったおおきな白色トレイのみずをいれかえて、きれいな水をいれてください。水がよごれていると、実験はうまくいきません。
④ 水面に②のショウノウをつけた船をそっとうかべてください。 どうなりましたか?
⑤ ②で、ショウノウをのせる前に、マジックでいろんな色に船をぬってやると楽しいですよ!
特別の実験 ビックリ!ふしぎな水中シャボン玉をつくろう。
① コップに水を3分の2ほど入れます。これに洗剤を5滴落とし、あわだてないようにして、よくかきまぜます。
② ストローをいれて、このコップの水をストローの先から数センチほどすくい上げます。
③ 吸い上げた水を約1cmほどの高さから落とします。うまくいくと、水中に直径1cmほどのシャボン玉ができます。
④ 別のコップにおなじような洗剤をとかした水をつくって、そこに色素をとかし色水をつくります。これでおなじように水中にシャボン玉をつくると、色のついたシャボン玉ができます!
※ 何度やってもうまくいかないときには、さらに洗剤を数滴落とし、同様にやってみます。でも、洗剤が濃くなりすぎるとかえってできにくくなってしまうので注意! このシャボン玉は、水の中に空気のまくにつつまれた水の玉がういているのです。洗剤はどうなっているか図をみてください。
【注】実験「樟脳船」は、昔は縁日の露店でおもちゃとして売られていたりして、ひとりでに水面を動く不思議さがあるものでした。ただ、動かすには少し工夫も必要で、山内さんは樟脳の製造会社に電話をかけ、検討の上で成功させました。また、「しょうのう」とは、C10H160という分子式で表される物質の一種で、クスノキの精油の主成分であり、防虫剤や湿布薬、セルロイドの添加剤などの用途もありました。
問い合わせ先:山内一徳(きくがわ科学少年団 )ymchkznr@sea.plala.or.jp