半年前のことですが、2013年9月28日に「静岡・高校理科サークル」の行事に「科教協静岡」も加わって、「JAXA」の見学をしてきました。これは、「きくがわ科学少年団」の山内一徳さんが、つてを頼って少年団の行事として、「ペットボトルの水ロケット」の製作、宇宙やロケットの話を聞く「コスミックカレッジ(宇宙科学教室)」を開いたことに始まります。
JAXA相模原キャンパス(旧宇宙科学研究所)の見学会では、会議室でJAXAや人工衛星の話を伺って、また、展示室の見学をしました。
この展示室は無料で見学ができます。(臨時休館日以外年中無休、9:45~17:30)
施設は、緑あふれる敷地にゆったりと建っています。入口にある守衛所で見学の受付をします。駐車場もありました。建物の外にもロケットが展示されています。また、建物の玄関に入ってすぐに展示室があります。
驚いたことは、展示されている打ち上げられた人工衛星は模型ではなくて、複数作ったもののひとつで、本物とのことでした。外に展示のM-Ⅴ(ミュー・ファイブ)ロケットも本物でした。
尚、少年団では、水ロケットを作って飛行距離を競うコンテストをしたそうです。宇宙の話とものづくりの楽しい会になったようです。担当者によると、学校やクラス、町内会?などで、依頼があれば出向いて指導をしてくださるそうです。また、高校での授業(ワークショップ形式)や教員向けのセミナー等の開催も可能とのことでした。興味がある方は、相談をしてみてください。
訪問のときの(事前)質問と「JAXA」からの回答
学生や生徒に教える時、私たちはいつもひとつの「物語」を組み立てます。はっきりとイメージできる物語(ストーリー)がわかりやすく組み立てられれば、それは「よい教材」になると思います。そういう意味で、「宇宙」を教材にできればという発想でいくつか質問させていただきます。教材化のヒントになるような材料が頂ければと思います。
Q1. 「はやぶさ」が宇宙空間を移動する際の位置を決める『座標』はどのようになっているのでしょうか?(地球も太陽もすべて動いているので??)要するに「宇宙航法」の基本原理はどうなっているのでしょうか。たとえば、月に行く場合と、イトカワに行く場合ではちがうような気がするのですが。
A1. 基本的には動かない太陽と恒星の位置を基に軌道を決定します。太陽も動いてはいるのですが、ほとんど動いていないと仮定して決定しても実際の軌道とのずれはほとんどありません。これら追尾システムをスタートラッカと言います。「はやぶさ」では、このスタートラッカと地上からの電波による観測とを複合させて、精密な軌道決定が行われました。このナビゲーション方法を複合航法と呼んでいます。このような軌道決定は世界初の試みで、「はやぶさ」の航法技術は世界第一線のレベルです。
Q2. 「はやぶさ」が採取した「イトカワ」表面物質は、何だったのか?そして、その事実からどんなことが分かったのでしょうか。
A2. カンラン石、輝石、斜長石、硫化鉄、クロム鉄鉱や、それらが混在した粒子であることが分かりました。また各鉱物ごとの組成はほぼ均一であり、それらの鉱物が複数混在している粒子が存在することから、採集粒子は同一の条件下で形成された岩石の粒子であると考えられ、地球上の岩石で当てはまるものが見られないことなどから、この粒子はイトカワ由来のものと判断されました。なお、イトカワのサンプルに約800℃まで加熱された痕跡がありました。小惑星は小天体同士が衝突・合体を繰り返して大きくなりますが、その際、運動エネルギーが熱エネルギーに変わり、小惑星の内部に熱がたまりました。小惑星は大きくなるにつれ熱せられていったわけですが、イトカワのサンプル内の鉱物には、その加熱のプロセスが記録されていました。さらにその鉱物には、高温に加熱された後にゆっくり冷えていったという冷却のプロセスも記録されていました。小さな粒子を構成する鉱物を注意深く分析することで、小惑星の歴史がとても正確に分かるのです。
Q3. 「はやぶさ」のイオンエンジンの力(推力)はどれほどのものですか?イオンエンジンの原理について説明してください。また、「はやぶさ」のどういう段階で何時間くらいイオンエンジンは動いたのでしょうか。
A3. 放電出力32W、グリッド電圧1.5kV、発生推力8.5mN、比推力1、700から3、400秒です。1円玉にかかる重力程度の推力です。宇宙空間では、大気による摩擦を顧慮する必要がありませんから加速度がわずかでも、長期間加速し続ければ、最大速度は大きくなります。なるべく少ない燃料(推進材)で、最大の加速を得られるエンジンが宇宙空間での優秀なエンジンなのです。
「はやぶさ」のイオンエンジンは累積4万時間の運転を達成しましたが、これは、宇宙空間におけるイオンエンジンの稼動時間として世界最長の記録です。
Q4. 新しいイプシロンロケットの打ち上げシステムが簡単になったしくみと理由は?
A4. イプシロンの狙いは「ロケットの打ち上げをもっと簡単で日常的なものにすること」です。このため、コストダウンや組み立ての簡素化、準備時間の短縮などが図られました。打ち上げコストは初号機で50億円程度、2号機以降では38億円で済む予定です。 2017年に打ち上げる次期イプシロンでは30億円以下に引き下げる予定でして、従来の液体燃料を使う大型ロケット「H2A」の場合、打ち上げに100億円近くかかっています。また、発射台にロケットを設置してから打ち上げ、後片付けまでの期間はイプシロンの場合、わずか7日でした。これに対し、イプシロンより1世代前の小型ロケット「M-V」では42日間もかかっていました。
Q5. ビッグバンによって、この宇宙は誕生したので、宇宙誕生前は空間のみならず時間も存在しないといいますが、難解です。高校生や中学生にどのように教えたらよいのでしょうか?
A5. ビッグバンというのは、あくまで理論である、ということをまず念頭に置かなければなりません。ビッグバンは過去にあった事実ではなく、現在の宇宙における銀河や星雲の移動する様子を観測した結果、導き出された理論です。従って、ビッグバン以前の宇宙を推測する手がかりは何も無く、事実として定説足りうる説も現在は存在しません。一般相対性理論において、ビッグバン以前の宇宙が推測されますが、量子力学的観点から考えると、量子力学的法則を一切無視している一般相対性理論は、破綻するのではないかと考えられます。要はビッグバン以前のことはよく分からないということです。ビッグバン直前の宇宙は、高温・高密度であったことが推測されるわけですが、それは現在の宇宙の膨張の仕方から考えられているに過ぎず、物的証拠はありません。
Q6. 宇宙について興味のある子がいます。宇宙について研究する進路はどんなものがありますか。また高校、大学で何を専攻したらよいでしょうか。
A6. 自分の一番興味のあることを選考したらよいと思います。ロケットや人工衛星に興味があるのでしたら、理科系機械・電気・電子・システム系に進むとよいと思われますが、現在日本は有人宇宙開発にチャレンジしています。人類が宇宙に進出するためには、理科系だけの知識では歯が立ちません。人類が宇宙開発を進めるその意義を国民全体に理解させるためには、人文社会科学系の研究者による宇宙開発への参加が必須と思われます。そういう意味で、これから宇宙は理科系だけのものではありません。文科系に行っても十分宇宙に関わることができます。実際、東京大学では宇宙政策を、慶應義塾大学では宇宙法を、京都大学や神戸大学では宇宙人類学をテーマに進めています。どこの大学が宇宙に開わっているかは先日お配りした黄色い冊子「JAXAと大学との連携の現場最前線」の後半部分をご参照ください。
Q7. 宇宙について子どもたちに興味を持ってもらうために、これは!という興味深い宇宙に問する話を教えて下さい。
A7. 具体的にすぐに出てきませんが、これからの時代は宇宙時代です。今の子どもたちが大きくなったときは間違いなく宇宙時代が到来していると思います。その時には、すでにある宇宙理学、宇宙工学、宇宙医学などの宇宙科学分野だけでなくQ6.で回答した宇宙政策学、宇宙法学、宇宙建築学、宇宙人類学といった人文社会科学系の学問がますます台頭してくると思われます。何でも興味を持って一生懸命勉強すれば、必ず宇宙につながるのです。
宇宙からの視点を持ち、世界で活躍できる人材育成にJAXA宇宙科学研究所は大学院教育面で貢献しています。