(1) アルコールランプは、こわくない
試験管に入れてあったアルコールに引火したら、驚いてその試験管を思わず放り出したという話を聞いたことがあります。 そうすればもちろん危険ですが、よほど引火や爆発といった事故の恐怖のイメージが強かったのでしょうか。
でも、むやみにこわがるとかえって大事故を引き起こしたりしてしまいます。小学校の場合では、考えられる事故はおそらく引火ややけど、切り傷などでしょう。 それらは注意して周囲から事故の要因をのぞいていれば怖いことはありません。むしろ知らないことが恐ろしいのです。 そこで危険な事故は、事前に実際にわざと発生させて体験してみることをおすすめしたいと思います。
たとえば、こぼしたアルコールに引火した場合、実験台に火がうつることはありませんし、アルコールが気化して熱を奪うので焦げることもありません。 実際に机上にアルコールをこぼして火をつけてみてください。また突沸(いきなり沸騰して液体が吹き出ること)なども、一度わざとやってみることをおすすめします。
なお、案外知られていないのですが、椅子につまずいて事故をおこすことがあります。 目の下の椅子は死角になっていて見えにくいのです。理科室では立ったら、原則椅子をしまうよう指導していきましょう。
(2) ガスバーナーの操作について
ぜひ一度分解して構造を見てください。下のガス量調節のねじと上の空気量調節のねじのすき間から空気が入ります。 このすき間を手でふさぐと、炎は不完全燃焼して黄色くなります。生徒に不完全燃焼の話をするのにいい教材になります。
点火の方法
① ふたつの調節ねじが共に閉まっていることを確認し、元栓を開く
② 火を近づけ、下のガス調節ねじをゆるめて火をつける
③ さらに下のねじをまわして炎の大きさを5~6cmくらいにする
④ 下のねじは手で押さえて固定し、上の空気調節ねじを開けていき、炎の中に青色の三角形の部分(内炎)ができるようにする。
消火の方法
① 下の調節ねじは手で押さえて、上の調節ねじを回して空気を止める
② 下のねじを回してガスを止める
③ 元栓を閉じる。
ただし、熱いうちに調節ねじを完全に閉めると、冷えた後でねじが回らなくなるので、元栓を閉じた後、ねじはすこし緩めておくといいでしょう。
もうひとつおすすめなのは、教師実験では(教室にも持ち込める熱源として)、家庭用の卓上コンロのカセットに装着するガスバーナーが便利です。 使いやすいですし、ガラス細工もできるほど高温にもなります。キャンピングガスでもいいのですが値段が高いのが難点です。
(3) ろ過の操作について
ろ過は、とにかくろ過できればいいやぐらいの気持ちで、あまり厳密でなくても気楽にやりましょう。 もし、道具がなかったら100円ショップにもあるコーヒーフィルターも使えます。 ろうと台がなかったら、試験管に直接ろうとを差し込んでもいいし(試験管とろうとの間に紙をはさんで空気の逃げ道をつくる)、
100円ショップにある手で自由に曲げやすい園芸用のアルミの太い針金でも簡単につくれます。
ろ過では、ろ紙がろうとに密着していると、ろうとのガラス管部分の液体が重力で流下することによって、大気圧でろうと上の液体の流下が進みます。
ろ紙のおり方には2種類あります。ろ紙をろうとに密着させる方法では、下図のようにろ紙の一部をちぎるとろ過がよく進みます。
この方法は、ろ過後にろ紙の上に残った固体がほしいときに使います。 逆に、ろ過して下に流下した液体のほしいときは、下図のひだ折りにすると早く進みます。
ただし、結晶の回収などのおおざっぱな実験でよければ、布でろ過したり、液体がほしいときは、ろうとに脱脂綿をつめたるだけでもできます。 何もろ紙にこだわることはありません。
ただちょっと疑問なのは、このろ紙のおり方がテスト問題になったということを聞いたことがあります。 理科の本質から離れた問題では、子どもを理科好きにはさせられません。
(4) 薬品の調合について
小学校の理科では、せいぜい「「%濃度」の溶液を使うぐらいだと思います。任意の%濃度の溶液をつくる簡単な方法を紹介します。 たとえば35%の原溶液から8%の溶液をつくりたいという場合を考えます。下図の矢印を真っ直ぐ伸ばした方向で、数値の差を求めてください。
この表の差の値が、液の混合の割合を示します。そこで原液を8に対して水を27の割合で混合すれば8%の溶液になるわけです。 このやり方は、パルプ工場で濃度の違うパルプ液を混合するのに職人さんが使っていました。めんどうな計算をしなくていいので助かりますね。
(5) まとめ
実験観察というものは、集中力や観察力、仕事を丁寧にすすめる注意力など「生きる力」をきたえる絶好のトレーニングの機会だと思います。 さらにまた、「なぜそういうことがおこるか」という好奇心を満たして考える力を培う場でもあります。
そういう点からみていると、最近の小学生の手先が大変不器用になっていることや、また最近の科学実験ブームをみていると、 「なんだかわからないが、おもしろいことをやった」という、科学のブラックボックス化の傾向も気になります。 科学が魔法と同列になっているのです。これではいけません。
科学教育は科学的な主権者を育てる民主主義の基礎です。困難な状況の中での現場の先生方の奮闘に心からエールを送りたいと思います。
紹介:山内一徳 (きくがわ科学少年団)
文責:長谷川静夫(科教協静岡)