科教協静岡の「研修交流会」を、2010年5月22日(土)の午後、静岡中央高校の実験室等を借用して開催しました。 テーマは「小学校の理科授業づくりと実験」です。
【内容の目次】
(1) 自分の考えが書ける子どもに
(2) 99%成功する植物の葉の「たたき染め加熱デンプン検出法」
(3) ブタンの中に燃えるロウソクを
(4) 鶏の手羽先の骨格標本づくり
(5) 骸骨人形模型づくり
(6) 小学校生活科の授業
(7) 小学校で役立つ基礎的な実験の手法
(1) 自分の考えが書ける子どもに 丸山哲也さん(科教協委員)
このことは教員の願いですが、子どもの困惑の声も。
「先生、何を書いたらいいか分からない。」「自分の考えだから何を書いてもいいんだよ。」「でも、分からないから、分からない。」‥‥
では、自分の考えを書けない理由はどこにあるのかと、丸山さん。 プリント花盛りな最近の小学校の授業。教科書を写す作業中心では、子どもは記憶した内容を書き出すことが学習の中心と考えて、考える力を失ってきます。 考える必要がない授業だからです。
黒板に書くことは「課題」だけ。「自分の考え」以降をどう書いたらいいか分からない子には、文中に必ず課題の言葉を使うように指示すると書きやすくなるそうです。
初めの課題では、(子どもたちに)自分の考えの根拠がないので、子どもたちの生活体験が重要ですが、それではどの子でも考えられる授業にはなりません。 そこで次の課題からは、前の時間に分かったことから書くように指導するとのことです。
例えば、(課題3)ブタンの中に燃えるロウソクを入れると、ブタンは燃えるが中のロウソクの炎は消えること(別記事の写真参照)を見て、(課題4)酸素の中ではロウソクの炎はどうなるかと問います。 一番簡単な指示は「前の時間の結果で分かったことを書きましょう」と。
例えば、「燃える気体のブタンの中に炎を出して燃えているロウソクを入れました。ロウソクの炎は消えたけれど、集気ビンの口でブタンが燃えていました。 ブタンは燃える気体だということがわかりました。」と書ければ十分。 さらに「今日の気体は、酸素なので分かりません。」「酸素が燃える気体ならば、ブタンと同じようになると思います。しかし、酸素がどんな気体なのか分かりません。」等々。
酸素という気体の予備知識が無くても、このように自分の考えを書けるような課題配列が大切とのことです。
「1時間の流れをどのように組み立てるか」は、 ① 実験道具を使用して課題を提示する。 ② ここまでに質問があるか問う。 ③ 課題をノートに書いて自分の考えを書く。 ④ 「自分の考え」の分布と理由の傾向を机間巡視で確認する。 ⑤ 「自分の考え」の分布を挙手で確かめて板書する。 ⑥ 「自分の考え」を少数意見から発表する。(特に発言させたい場合はその子から) ⑦
ひとつの「考え」が終わったら、次の「考え」を発表する。 ⑧ 質問や意見を交流させる。 ⑨ 「自分の考え」を再度聞く。 ⑩ 実験や資料で結果を確かめる。 ⑪ 結果と分かったことを書く。(10分は確保する)とのことでした。
(2) 99%成功する植物の葉の「たたき染め加熱デンプン検出法」 丸山哲也さんの紹介
① ろ紙を半分に折って、調べる葉を間にはさむ。
② 葉をはさんだろ紙をビニル板などにはさむ。(デスクマットの廃品を使うのが便利)
③ ビニル板の上から木づちでたたき,ろ紙にはさんだ葉を押しつぶして、葉をろ紙に写し取る。ろ紙に色がにじんできたらOK。葉は取り除く。
④ 葉を写し取ったろ紙を、水に浸す。
⑤ 焦げないように注意しながら、電熱器で加熱、乾燥する。(ろ紙が焦げる直前まで)
⑥ ヨウ素溶液(ヨウ素ヨウ化カリウム溶液)に浸す。
⑦ くっきりとデンプン反応が出る。(青紫色に発色する)
⑧ 乾燥して保管すると、何度も使える。
【詳しくは別の記事を見てください】 → 「 たたき染め加熱デンプン検出法」
(3) ブタンの中に燃えるロウソクを 丸山哲也さんの紹介
ブタン入りの集気ビンに火をつけたロウソクを入れていくと、大きな炎になるが、さらに差し込むとロウソクは消える。 ブタン自身が燃焼し、内部は酸素がないので燃えない。
(4) 鶏の手羽先の骨格標本づくり 望月理都子さんの紹介(科教協山梨支部)
鶏の手羽元はヒトの肩からひじの部分、手羽先はヒトの腕のひじから先の部分で、鶏は進化の途中で、指の骨は3本になりました。
沸騰したお湯で15分程度煮て、爪をはずします。それを竹串、歯ブラシで皮、肉、軟骨をはずし水洗いします。瞬間接着剤で固定します。
(5) 骸骨人形模型作り 望月理都子さんの紹介
科教協の山梨支部の会員が、学校に送られてきた掲示新聞を活用して作製。 画用紙の2枚に印刷したパーツを切り離して、それを組み立てると骨格模型ができるようになっているとのことです。
子どもたち自身で、組み立てることによって、興味を持って人間の骨と関節のことを確認できるものです。
(6) 小学校生活科の授業(科教協山梨支部の授業実践より抜粋)
1) 生活科で大切にしたいこと
生活科は学校ごとの実態に合わせた教育課程が作られているとは思いますが、子どもたちに何を見せたいのか、どんな活動を通してどんな力を身に付けさせたいのか、 指導する教師がきちんともっていないと全くあいまいなものに終わつてしまうような気がします。 自分たちの地域や社会、自然との関わりを通して何を見せたいのかをまず自分の中にはっきりさせることが大切だと思います。
生活科に取り組む中で、意識していることをあげてみました。
・社会的な内容が多いので、意識的に理科的な活動をとりいれる。
・自然との関わりを通して、子どもたちの発見や気づきを大切にしていく。
・一人の気づきは、必ずみんなで共有できるようにする。
・日常生活の中でも自然に関することを教師から働きかける。
・教師が意図的に教室に自然を持ち込む。
・植物でも動物でも何でもそうだが、事実をしっかり見させる。
・観察するときは、必ず観察する視点を明確にする。
・作る、遊ぶ、食べるなどの子どもの興味の高い活動を取り入れる。
・自分の発見したことを綴る。
・絵本形式などにしてまとめられるものはまとめるとよい。
・図鑑や絵本を授業の中で活用する。
2) 1年生は「自然のおたより」を
2年ぶりに1年生の担任になった。どんなことにもやる気まんまんで目を輝かせている子どもたち。 そんな子どもたちに、できるだけ回りの自然に目を向けられるような子どもになってほしいと思っている。 自分の目で見て、聞いて、触つて、そしていろんなことを心で感じ取れる子どもになってほしい。それを友達や他の人に伝えることもできるようになってほしい。
一人の発見をみんなで共有できたら素晴らしい。そんなことを考えている。そして、そのことを回りの自然との関わりを通して取り組んでいけたらと思う。
教室に自然を持ち込む ― まず教師が教室に自然を持ち込むことから始めている。毎週月曜日の朝(一応きめている)おみやげを持っていくことにしている。(具体例は略)
これから取り組んでいきたいこと
・私だけでなく、子どもたちの発見をとりあげていく。
・朝のお話で、発見したことがあったら取り上げる。
・自分の言葉で友だちや先生に伝えるようにする。
・絵と文で綴る。
・お便りで紹介することによって、家庭にも伝える。
3) 2年生の生活科はタンポポからはじめよう
社会的な内容が多い2年生の生活科の中で、少しでも回りの自然に目が向けられるようなものを取り入れていきたいと思っています。 そこで2年生の生活科のスタートは、いつもタンポポから始めています。国語で「たんぽぽのちえ」という説明文も学習するので、ちょうどいいかなとも思います。 この時期どこにでもたくさん咲いているタンポポ。自分だけのタンポポの絵本作りはどうでしよう。
タンポポの絵本作り(9時間)
① タンポポの絵をかく (1)
・校庭や学校の回りでタンポポを見つける。
・自分の見つけたタンポポの絵をかく。
・よく見てぺんでかき、色鉛筆で色をつける。
◇ 身の回りのタンポポに関心をもたせる。
◇ 石と石の間、コンクリートのすき間などいろいろな所に咲いていることに気づく。
◇ 後で絵本にするので、毎時間、白い画用紙に絵と文でかいていくようにする。
② タンポポさがし (1)(家庭学習)
・家の回りでもタンポポを見つけてみる。
◇ 家のまわりにもタンポポがたくさんあることに気づかせる。
◇ どんな所でタンポポを見つけたか、絵と文にかかせる。
③ タンポポのからだを調べる。(1)
・タンポポのからだが、花、葉、茎、根からできていることを知る。
◇ 花の下の長い部分は本当は花軸といい、茎は、葉や根が出ている部分であることにも簡単にふれる。
④ タンポポの花を見る。(1)
・タンポポの花を分解して、小さな1つの花を虫眼鏡で観察してみる。
・くるくるしためしべや種の赤ちゃん(種のもと)のありかを見る。
・1つの花をよく見てかく。
・やったことを文で書く。
◇ 一人一人虫眼鏡を持たせて観察させる。
⑤ タンポポの花を数えてみる。(1)
・1つの花を分解して、班ごとに教えてみる。
・10ずつセロテープでとめていく。
・各班で教えた数を合わせて、1つのタンポポにいくつ花があったかを調べる。
・絵と文でまとめる。
◇ 1つのタンポポを3つの班くらいで分けて数えさせる。
◇ 1つのタンポポに何百というたくさんの花がついていることを実感させる。
⑥ タンポポの種を見てみる。(1)
・1つの種をとって虫眼鏡で観察する。
・1つのタンポポからたくさんの種ができることを知る。
・タンポポの種をまいてみる。
・絵と文でまとめる。
◇ 花の数だけ種もできることを気づかせる。
◇ 脱脂綿に水を含ませて、種を発芽させてみる。
⑦ タンポポの根っこほり (1)(家庭学習)
・タンポポの根をほってみる。
・かたくて長い根だということを確認する。
・絵と文でまとめる。
◇ 掘った根っこは、士をよく落として持ってこさせる。
⑧ 絵本作り (2)
・今までまとめてきたものをのりづけして本にする。
◇ 絵本「たんぽぽ」(かがくのとも傑作集・平山和子) を紹介する。
◇ 国語の「たんぼぽのちえ」とも関連させて、タンポポをみる視点をもたせる。
◇ タンポポで遊ぶ・長い軸さがし・タンポポを食べるなどの活動も取り入れたい。
(7) 小学校で役立つ基礎的な実験の手法 山内一徳さん(きくがわ科学少年団)
① 安全なアルコールランプの使い方・注意点
② ガスバーナーの操作の仕方
③ 上手にできる簡単なろ過の仕方
④ 薬品の薄め方
【詳しくは別の記事を見てください】 → 「 小学校での基礎的な化学実験技術」
「研修交流会」を終わって
一般参加者(小学校の先生方)も運営係(科教協静岡)も、今までの会にはない、予想を越える参加があり、熱心な研修・交流ができました。
この会の準備としては、具体的な紹介・宣伝活動は、4月初め(会のおよそ1か月半前から)になってしまいましたが、 「科教協静岡ニュース」№5を発行し、ブログ「科教協静岡だより」に掲載しました。同時に、案内ちらしを印刷所に依頼して印刷しました。 このちらし配布は、やっと4月末の連休前に、2500枚を会場周辺の静岡市・焼津市・藤枝市の全小学校に、全教員分を宅配メール便で発送、
また、島田市の一部の小学校には会員が届けてくれました(これらの宣伝の費用は科教協からの援助を受けました)。 科教協のブログ等にも掲載を依頼しました。また、5月になってから紹介されて、教科書会社のホームページの催し物紹介にも載せました。 しかし、参加者のアンケート結果によると、ほとんどの方が学校に配布したちらしを見て来られたようです。
参加の感想等
・ ションベン小僧もおもしろかった。4年生の理科を担当し、これからの授業に役に立つ情報(動物園で頭骨を借りられるなど)を教えてもらい、骸骨人形、鳥の手羽先の標本作りなど、とても参考になりました。
・ 明日の授業をどうしようかというレベルでしたので、具体的な内容を教えていただき、体験学習もさせていただいたので、大変参考になりました。 ありがとうございました。
・ テンポよく、幅広いお話が聞けてよかったです。5年生のお話も、していただけて、これからの理科が楽しみになりました。
・ 教科書だけでなく、発展的な内容がよく分かりました。
・ がんばってみます!! ありがとうございました。
・ 実践的でわかりやすい。このような企画があればまた参加したい。
・ 具体的に本音もあってわかりやすかったです。
・ あさがおのかんさつ絵本 人の骨格 ガスバーナーの使い方(が良かった)。
・ しょんべん小僧、エタノール脱色法(が良かった)。
・ 手羽先を食べて、骨をとりだし、体験できたこと(が良かった)。
・ がいこつ人形づくり実習、手羽先解剖実験(が良かった)。
・ 小学生向けのわかりやすく楽しい気体の学習は、中1の学習でも十分つかえると思いました。
文責:科教協静岡 長谷川静夫