「東海・近畿教育研究サークル合同研究集会 & 静岡県教育研究のつどい」が、2009年11月1日(日)に浜松北高校で開かれました。 科教協静岡では、理科教育分科会の運営に協力しました。 今回は、小学校からの理科の授業についての報告が多くあって、熱心な意見交換がなされました。そのことを中心に、報告と議論の一部を紹介します。
(1)「酸とアルカリ(小6)」園部勝章(奈良教育大学)
園部さんは、小学校6年のこの単元について、「酸とアルカリは、目に見えるマクロな世界が、目に見えないミクロな世界の反映であることを学ぶこと」で、 「だからこそ、学ばないと認識できません。」と言っています。 「小6では、目に見えるマクロな世界での事実(酸のはたらきや金属の化学変化など)を大切にし、ミクロな世界での科学者の説明(中和反応)を子どもたちに話していきたいと考えています。」
この授業のねらいを、次のように提案しています。
・酸性の水溶液は、すっぱく、炭酸カルシウムを溶かし、青色リトマス紙を赤色に変え、一部の金属や金属酸化物を溶かすことを理解させる。
・酢酸と水で酢酸水溶液ができ、酸のはたらきがでてくることを知らせる。
・アルカリ性の水溶液は、酸のはたらきを打ち消すことを理解させる。
・酸性の水溶液とアルカリ性の水溶液で、中和反応がおこることを知らせる。
この単元の11時間での指導計画、各時間のねらい・具体的な学習活動(すすめ方)と、 その中の小学校での1時間分の授業記録(実験や教員と子どもの発言記録)が、紹介されました。
奈良教育大学での「初等教科教育法」の授業で、 「小学校時代に、食塩を水に溶かしたり、塩酸水溶液が青色リトマス紙を赤色に変えたり、アルミニウム箔を塩酸水溶液に溶かしたりした学生は、 必ず、『なつかしい。』と言って反応」するそうです。 他方、実験をした経験がなくて言葉で学んだだけの学生には、反応が冷たかったり、現象の内容を理解しようとしない者もいるようです。 小学校でも実験を経験しておくことが、理科好きにするためにも、自然・科学現象に興味をもった大人を増やすためにも、大切なことではないでしょうか。
(2)「授業を通して、子どもたちの認識を探る~小学校4年『閉じこめた空気や水を押してみよう』から」中村雅利(京都市立嵐山小学校)
中村さんが、この単元のポイントとしたのは、次のことです。
① 目で見えない空気の存在を、また重さや体積をもつ“もの”としての認識を培う
② 閉じこめられた空気や水の性質とその違いを自らの表現力で書き発表できる
「“目に見えない・つかめない空気”の存在を如何に実験・観察の結果から“イメージできる空気”として取り扱えるかが大切である。 子どもたちが抱いた“目に見えない空気”のイメージを大切にし、その実験・観察結果と結びつけ、説明・表現できるかを大切にして行きたいと考えている。 個々の抱いた空気の存在を話し合い活動を通して、さらにそのイメージを広げるように授業の展開も工夫する必要がある。」
この単元の学習到達目標を、次のように提案しています。
・見に見えない空気の存在を水中の泡などで確かめることがことができる
・空気は、体積や重さがある
・空気は、力を加えると押し縮められ、もとの体積に戻る性質がある
・水は、力を加えても押し縮められない
・空気の性質や働きを使って、おもちゃづくりができる
総合評価テストも含む6時間分の授業展開を含めた指導計画と、子どもたちの空気に対するイメージや理解のしかた、 および、子どもたちが書いたワークシートが紹介されました。
子どもたちの多くは、「とじこめられた空気がもし見えたら」で、空気を丸っこい粒としてイメージをしている。 ばねや棒状というものもでるが、子どもたちの話し合いの中では、粒でないと『空気は重さもあるし、ボールのようなかさもあるから』 『他の形で考えたら、説明しにくい』となるとのこと。
しかし、「ここでは結論は出さない。空気は圧縮性があることが分かれば良い。いずれどこかでやはり粒なんだと分かれば良い。」とのことでした。
中村さんは、授業で話し合い活動を大切にしています。 まず、中村さん作成ののワークシートに、実験や観察で気づいたり考えたことを、絵や言葉で書き込ませる。そのワークシートの内容を踏まえながら、 話し合い活動の柱をたて展開をしていくとのことです。
子どもたちは子どもたちなりに、事実に基づいて絵や言葉・発言で伝えようとする。この中身に対する、キャッチボールが大切という議論になりました。
(3)「4年『とじこめた空気や水をおしてみよう』」山内衛(沼津市立第二小学校)
山内さんは、小学校段階での「空気」の学習で育てたい科学的認識について、次のように提案しています。
① 空気は軽くて目で見えないが、物質であり体積と重さがあること。
② 空気は力を加えると体積が変化し、力を取り去るともとの体積に戻ること。
③ 空気は熱を伝えにくいこと。
④ 空気は電気を伝えないこと。
⑤ 空気は暖めると体積が増え、冷やすと体積が減ること。
この単元の指導計画(全6時間)は、次のものです。
① オリエンテーション 空気について知っていることを発表しよう。袋に空気を閉じこめて、押した手応えを感じよう。
② 閉じこめた空気を押したり引っ張ったりすると、どうなるだろう。
③ 閉じこめた水を押したり引っ張ったりすると、どうなるだろう。
④ 空気鉄砲の空気のかわりに水を入れると、前玉の飛び方はどうなるだろう。
⑤ 空気をいっぱい入れた空気鉄砲と半分だけ入れた空気鉄砲では、どちらが飛ぶだろう。
⑥ 空気鉄砲や水鉄砲で遊ぼう。水ロケット発射。 ※ 太字の部分は教科書では扱っていない内容で、そのため配当時間を1時間増にしたとのことでした。
このことに関して、山内さんは指導書にある「『~について考えをもつようにする』という表現は、とても気になります。」 「ただ『考えをもて』ばいいのでしょうか。理科の学習である以上、科学的な知識にもとづいた正しい考えでなければ意味がないはずです。」 「実験や観察、そしてクラスの仲間との話し合いを通して、自然科学に対する正確な知識と考えをもつことを大切にする必要があると思います。」
とのことでしたが、その通りだと思いました。
また、教科書では「力を押し縮める方向に加えたときだけを扱っていることです。 『空気はピストンを引っ張るとかさが増え、元に戻ろうとする性質がある』ことや『水はピストンを引いても、かさが変化しない』ことにふれていません。 押したときのことを学習すれば、引っ張ったときにどうなるかを調べたくなるのは、子どもにとって自然な思考の流れだと思います。」
報告には、1時間分の授業の2クラスでの授業記録(実験や教員と子どもの発言記録)と、まとめが紹介されています。
水の実験では「ガラス製の注射器を使用したほうが押しても引いてもびくともしない感覚がよく分かります。 児童用の実験セットでは、押し棒の先についているゴムが多少伸びたり縮んだりするため、水が縮んでいるように感じてしまう欠点があります。」 「オリエンテーションで、目に見えない空気を見る方法、空気を感じる方法を話し合いました。
‥‥生活科でなくなってしまったことと子どもたちの生活経験の量を考えると、実際に体験するなどもっとていねいに扱う必要があるかもしれません。」とのことです。
山内さんは、生徒に書いてもらったアンケートの分析の結果によって、いくつもの工夫をしています。
実験の時「なるべく子どもたちを教師机の周りに集めてやり方を説明するようにしました。 実際にやってみせることで、器具をどういうタイミングでどのように動かすとか、試験管のどの部分を指で持つかとか、図と言葉だけではわかりにくいことも理解できたと思います。 これが、器具の操作が苦手な子どもも尻込みすることなく実験に取り組める一歩になったと感じています。」
「黒板の内容を写しながら、同時に説明を聞いたり、意見をまとめたりすることが下手になったような気がします。 そこで、しばらく前から、書くことと説明を聞いたり発表したりすることをはっきり分けるようにしてみました。」 私語が多くて荒れた6年生に、「『集中しよう。集中すれば時間が生まれる。生まれた時間で楽しいことをしよう』と提案しました。
『無駄な時間を減らせば、ガスバーナーやアルコールランプの操作の練習を何回もできるぞ。』 ‥‥こういう分かりやすい活動を通して、私語をやめてさっと取り組むスタイルを理解させることが大切だと思います。 生み出された時間は、実験回数を増やしたり、オプション実験をやったりする時間となります。また、いろいろな話をすることもできました。」
(3)「『きくがわ科学少年団』の立ち上げと取り組み」山内一徳(菊川市在住)
地区のコミュニティ協議会の事業として、菊川市六郷地区の小学生有志を中心とした少年団を立ち上げたとのことでした。 補助金と参加者の会費とで運営をし、保護者や理科教員およびOBのボランティアが協力をしています。
月1回(日曜)の予定で、科学実験会、観察会、見学会等を計画しています。
7月は、「電気パンをやいてみよう!…イオンの勉強」
8月は、「ペットボトルロケットをつくる…100mをこえてとぶか?」
9月は、「おさとうと二酸化炭素の科学…カルメ焼きとベッコウアメに挑戦!」
10月は、「浜松科学館のプラネタリウム見学旅行」等
山内さんは、「ブラックボックスでないようにと、ストーリー性を持って理由を説明している。 小学生でも分かるように説明すれば、そのことが使えるようになる」とのことです。 また、ものづくり体験や、科学史の活用(原理・原則が分かりやすい)も重視したいということですが、 紹介された写真や様子から、子どもたちが楽しく取り組んでいることが分かりました。
「小学校3年生は、難しい話を親子で理解しようとしている」とのことで、大変良いことと思いました。
文責:長谷川静夫(科教協静岡)
分科会での議論のようす
実験「鶏の心臓の解剖」の紹介(杉山直樹さん) →
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